[rain] ページ2
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「夜に見る雨が好きなの」
シ「なんで？」
古い建築物特有の薄い窓硝子にはたはたと跡をつけては下方へと落ちていく雨粒を、窓硝子と同じように薄い布団の上で眺めながら彼女がこちらも見ずに呟く。彼女の白い背中に二つ並ぶ小さなほくろに指を伸ばし掛けていた俺は、彼女の言葉に視線を窓の外へとやってからゆっくりと彼女へと向き直った。俺の下で甘い声を上げシーツを握り締めていた時の姿のまま、下着を纏う事もなく真っ直ぐに背中を伸ばし月時雨を眺める彼女の瞳は薄汚れたアパートのなかで妙に澄んでいて綺麗だと、素直にそう思えた。
「だって、―――すべてを許してくれる気がするじゃない」
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「えー、今日からうちで働いてくれる―――」
大学に入ってすぐにバイト先に選んだガソリンスタンド。時給もいいし、何より短時間ずつでもシフトに入れるのが魅力的だったけれど、自動車を構築するためのパーツというのはどれもそれなりに重量があり女性従業員と呼べるのはこの店舗には店長の奥さんたった一人という華のない職場でもあった。
そうして働き始めて半年が過ぎたころ、新しいアルバイトが入ると聞かされ紹介されたのが近くの女子大に通うというAだった。彼女は仕事の飲み込みも早く、元気の溢れるタイプではなかったがその丁寧な仕事ぶりで常連のおじさん達からはたちまちに好かれ入って一か月で「ここのバイト、辞めないでね」などと声を掛けられるようになっていた。
シ「どう、ここの仕事。結構重労働だし大変っしょ」
「ですね。でも、お給料いいのは魅力的です」
月に一度か二度、週末に都合が付けば丸一日フルタイムでシフトに入ると必ずと言っていい程彼女もシフトに入っていて、休憩時間が一緒になればぽつりぽつりと会話を交わすがそれも毎回僅かなものばかりだった。というのも、休憩室での彼女はいつも何かしらの本を開き黙々と文字を目で追っていたから。
シ「なぁ、それ今何読んでんの？」
読書の邪魔をするのが無粋だとは分かっていた。それでも文字を追い上下する彼女の睫毛を眺めていたら、その動きを止めてみたいという子供じみた好奇心に考えるより先に口が動いて慌てて誤魔化すように己の肩で口許を隠せば、きょとんとした表情のAがそれに気付きけらけらと軽やかに笑みを作って、読みかけの本を俺に説明するように閉じて見せた。
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月雲(プロフ) - coyumaさん» coyumaさん、読んでくださってありがとうございます。柔軟な包容力で愛してくれそう、と書いたのでそれが伝わって嬉しいです。また来年もお付き合いくださいね。 (2019年12月31日 0時) (
レス) id: 27315dcb3c (このIDを非表示/違反報告)
coyuma(プロフ) - モトキくんの柔らかな包容力を堪能できました！ほろりと幸せな気持ちになれました。 (2019年12月30日 16時) (レス) id: 96592c7e36 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月雲 | 作成日時：2019年6月19日 23時
