天才音楽家と言われた少女は笑う［歌い手］

本音。7 ページ8

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コンコン、と奏の部屋の扉をノックする。

扉を開けると、不安そうな顔をした奏が駆け寄って来た。


「A…！どう、なったの」


ゆっくり息を吐いて、吸って、口角を上げる。
何でもないかのように、言わなきゃ。

だって、私が自分で決めたことなんだから。


『…私、海外に行くって決めた。ちゃんと自分の意思で。
音楽で人を楽しませることが好きだって気付いたから…もっと沢山の人を笑顔に出来るように、海外に行ってステップアップしようと思う』

「そう、なんだ…」

『だからね…』


泣きそうになるのをぐっとこらえて、懸命に笑顔を浮かべる。

当たり前のように隣にいて、離れることなんてないと思ってたのに。


『…今まで、ありがとう』

「……え？な、なんで？僕も一緒に…」

『ううん、行けない。
奏は日本にいる間だけの執事だから…海外には、連れて行けない』


呆然としている奏に、ごめんね、と呟く。
私だって…一緒に海外に行きたいし、離れたくないよ。

だけど、奏の将来を考えたら…日本でちゃんと高校を卒業して、行きたい大学に行って、就職することの方が…断然、幸せだから。


「…そっ、か。そっか！それなら仕方ないね！
いいなー海外。帰ってくる時には、お土産買ってきてね！！」

『……う、ん』

「っ、じゃあ僕ライブで疲れたからもう寝るね！おやすみ！！」

『え、奏…！』


静まり返った廊下に、扉が閉められる音がやけに響いた。
奏に向かって伸ばした右手を、だらんと下げる。

…最近、こうやってギクシャクしてばかりだ。


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