本音。6 ページ7
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ぎゅっと目を瞑って、頭を下げる。
一、二分しか経っていないだろうけど、体感では数十分に感じるほど、長い時間だった。
はぁ…と大きめの溜息と共に、「顔、上げなさい」とお母さんは言った。
「…本当は、貴方の為にはならないのよ。
せっかく練習して上手くなったのなら、利益の出る所で歌った方が…歌も武器にした方が、貴方の為なの。
それでも、Aは歌い手を続けたいの?」
力強く頷く。
…お母さんの言うことはいつも正しいから。
これから、何度も歌い手を続けたいって言ったことを、後悔するような場面に出会うのだろう。
それでも…私は。
『後悔しない。私は…歌い手のRayでありたい』
「…乃愛は?」
「乃愛も歌い手続けたいです!Rayくんとまた、一緒にステージに立つって決めたから…!」
お母さんは、またもや大きな溜息を吐く。
トントン、とテーブルを指で叩き、最後にもう一回だけ溜息を吐くと、「…いいわよ」といかにも仕方なく、というような声で言う。
「分かったわ…歌い手としての活動が、Aの音楽が楽しいって気持ちを取り戻させたなら。
…それに、案外今日のライブも悪くなかったのよね」
『っ、え…?』
「ただし、多くても半年に一度よ。それ以上は流石に駄目。
今までにないくらいハードな日々が待ってるんだから」
『ひぇ…』
いつものレッスンだって楽じゃないのに…お母さんの言うハードって、常人の倍くらいなんじゃ…
震え上がると、お母さんはふふ、と優しく笑った。
…けど直前の言葉のせいで、悪魔の笑いにしか見えなかった。
「でもA、奏と離れることは出来るの?」
『……え?』
思わずフリーズすると、当たり前でしょう…とお母さんは首を傾げた。
「奏は高校生で、雇用も椎名の息子で貴方の幼馴染だからしていたようなもの。海外に連れて行ける訳がないでしょう?」
『わ、私が雇えば…』
「そんなお金あるの?それにあの子は歌い手としてもっと活動したいんじゃない?
…あの子の一生を、Aが決めちゃ駄目よ」
『…そっか』
私と乃愛は、音楽家になるために…という目的があるけど、奏にはない。
私の執事だからって理由で、縛り付けちゃ駄目だ。
『…奏と、お別れ』
呟いただけで、胸がズキズキと痛んだ。
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Ruriyuri - 久しぶりにコメントを書くほどはまりました!面白かったです! (2022年9月4日 22時) (レス) @page9 id: 825b0bc841 (このIDを非表示/違反報告)
天音 - ここまで何ですか?本当にそうだとしたら続きが見たかったです。。。。。。 (2022年7月30日 9時) (レス) @page9 id: a73e1261aa (このIDを非表示/違反報告)
わたとあめ(プロフ) - 一気読みしました…!とても面白かったです!続きはないんですか…?ずっと楽しみにしてます(・ω・`) (2020年8月18日 18時) (レス) id: 36374236e3 (このIDを非表示/違反報告)
寝子(プロフ) - は?ここまでですか…?めっちゃいいところでは?なぜ完結扱いになっているのですか?……続き、まってます!更新楽しみにしてますよ! (2020年8月17日 18時) (レス) id: 7be43a5c44 (このIDを非表示/違反報告)
はく - 凄く面白いです。時々鳥肌立ちました。更新頑張ってください! (2020年5月6日 4時) (レス) id: 4d0b20ffc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2020年2月25日 23時