二十一話 ページ21
・
土曜日。
講義がないAちゃんは、家で食器洗いをしてくれている。
手伝おうとしたが、「ゆっくりしていて下さい!」と言われた。
…いつもゆっくりしている気がする。
Aちゃんの、Realityの初投稿は既に三十五万回も再生されている。
【期待の新人現る!】
【オリジナル曲のクオリティが高すぎる】
【鳥肌が立った】
…などなど、良いコメントばかりで、Liarがまふまふだとは誰も気付いていないようで安心した。
上機嫌に鼻歌を歌っているAちゃんをちらりと盗み見る。
何て曲だろう?と思い、耳を澄ますと…
「!…この曲どこで知ったの?」
『え?えっと…由菜ちゃんが、Escapismのもう一人のボーカルの子が好きな曲です。
よく休憩中に聴いていたので、メロディだけ耳に残っていて…』
「あ…そっか」
『この曲、知ってるんですか?』
「ううん、勘違いだったみたい」
そうですか…?と困惑した表情をし、食器洗いを再開した。
…Aちゃんが鼻歌で歌っていた曲、聞き覚えがある。
だって、まふまふのオリジナル曲の【とおせんぼう】だもん…
こっそり溜息を吐く。
まさか、Escapismのもう一人のボーカルの子が、リスナーだったなんて。
…警戒しておこう。会ったら気付かれるかもしれない。
食器洗いを終えたAちゃんが隣に来て、パソコンの画面を見る。
『わぁ、三十五万回も…!凄いですね』
「うん、凄い…予想以上だよ」
Aちゃんの、Realityの歌声がどれほど素晴らしいかが証明されたようで嬉しいなぁ…
せっかくだし、Realityの為に新曲を書こう。
透明感のある声を生かす為に、青春っぽい爽快な曲がいいかな…
Aちゃんに、どんな曲が歌いたいか聞いてみるか。
「新曲を書こうと思うんだけど…どんな曲がいい?」
『うーん、何でもいいです。真冬さんが思い付くままに書いてください!』
真冬さんの曲なら、きっと全部素敵ですから!と屈託のない笑顔で言う。
…人を喜ばせる天才なのでは?と本気で思った。
画面を覗き込みながら、Aちゃんが左側の髪を耳に掛ける。
…あれ?
「それ、痣?」
『っ!』
声を掛けると、慌てて左手で痣を隠す。
あっ、と声を漏らし、言い訳をするように小さな声で言った。
『いつもファンデーションで隠しているんですけど、すっかり忘れていました…』
そう言って、左耳に掛けていた髪の毛を下ろした。
痣、見られたくなかったのかな…
・
841人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時