二十話 ページ20
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『じゃあ…いってきます』
「いってらっしゃーい」
今日は大学の講義があるらしい。
二個受けるって言ってたから…三時間強、かな。
久々に家で一人になったから…少し寂しいかも、なんて。
「…アニメでも見よ」
まだ見ていないアニメが沢山あったはず。
一人だからできることをしよう。
そう思って、アニメを見たり音楽を聴いたりして楽しんでいたんだけど…
「Aちゃん、遅いなぁ…」
いや、まだAちゃんが大学に行ってから、二時間しか経っていないんだけどさ。
スマホを弄りながら、何度も時計を確認してしまう。
…依存性か、と思わず自分にツッコミを入れた。
「…こんなに、部屋って大きかったっけ」
部屋を見渡して、溜息を吐く。
…気分転換に、曲作りでもしよう。
パソコンを開き、ギターを手に取って曲を考えようとするけど、頭に浮かぶのはAちゃんの顔だった。
「まだ出会って四日目なのに…俺、チョロ過ぎない?」
こんなに簡単に人を好きになっていいのか…?と苦笑する。
Aちゃんのことを考えては頭の中から消す、という作業を繰り返して、曲作りが全然進まないまま二時間が経った。
「…流石に遅い」
暗くなりつつある外を見て、不安になる。
何か事件に巻き込まれた?
…有り得る。Aちゃん可愛いし。
もしくは…逃げた、とか?
「いやいや、それはない…はず」
バッと辺りを見回して、ギターがあることに安堵する。
ギターを置いて逃げることはない。絶対帰ってくる。
それに、彼女は帰るところがないから…
そう考えて、ふと思った。
もし、親が家に帰ってきて、と言ったら。
彼女は帰ってしまうのだろうか?
インターホンの音が鳴り、急いで玄関に向かう。
ドアを開けると、Aちゃんが、『ただいま帰りました』と言って微笑んだ。
全身の力が抜けるような心地がして、玄関で座り込む。
『え、真冬さん?どうしたんですか…?』
「…ちょっと安心して、力が抜けちゃっただけ」
手を借りて立ち上がる時に、Aちゃんと目が合う。
…こんなに純粋ないい子を、俺の事情で振り回していいのかな。
俺のせいで、Aちゃんの人生を狂わせているのかもしれない…
それでも。
この手は…離したくない。
再度ぎゅ、と力を込めて握ると、一瞬目を丸くするも微笑んだ。
そして、言葉では形容しがたい関係のまま…
出会って、一ヶ月が経った。
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時