十二話 ページ12
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「Aちゃん…あ、」
チャラい、ナンパ男達に声を掛けられている。
やっぱりAちゃんは、誰から見ても可愛いのだろう。
「君、可愛いねーお茶しない?」
『えっと、お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます』
「んん?」
そう言って、綺麗なお辞儀をするAちゃん。
斜め上をいく返答に、ナンパした側も戸惑っている。
お世辞じゃないんだって…と言いたいところだけど、ついて行かないだけ良しとしよう。
「俺の彼女に何か用ですか?」
「チッ、彼氏持ちかよ」
『えっあの、彼氏じゃ…』
「ほら、行くよ」
余計なことを言いそうになったAちゃんの手を取って引っ張る。
あ、勿論優しく、だけど。
『最近の人って、知らない人をお茶に誘うんですね…』
「いや、あれナンパだから。ナンパって分かる?」
『あの、一目惚れした時にするやつですか?』
「まぁ…純粋なものだとそうだね」
あれがナンパ…と呟いて、感動している。
今まで何度もナンパされたと思っていたけど…初めてだったのかな。
いつか、ついて行きそうで怖い。危ないものだと伝えておこう。
「ナンパって、純粋な気持ちだけじゃなくて、悪い事を考えている人もいるからさ、ついて行っちゃ駄目だからね」
『あ、それで助けてくれたんですね!彼女だって嘘をついて!』
「う、うん…」
説明されると少し恥ずかしい。しかも、彼女だって言って助けたのは二回目だ。
キザな男だと思われてないといいんだけど…
そう思って、ふと気が付く。
「…Aちゃん。家の外ではさ、付き合ってるってことにしようか」
『?』
「俺達の関係は、周りから見れば可笑しい。
付き合ってもいない男女が同棲なんて、あまりいい目で見られないから」
『な、なるほど…そのために、手を繋いでいるんですね!』
「え…」
目を向けると、俺はしっかりAちゃんと手を繋いでいた。
…またもや無意識。
思わず頬が赤くなった。
もしかしたら、人肌が恋しいのかもしれない。
まふまふを捨てたことで、沢山の人との関係を切ったから…
何も言わずにいると、躊躇いがちに手を握り返される。
…人の気持ちに気付ける、優しい子だなぁ。
元バンドメンバーも、この子を辞めさせるなんて、馬鹿なことをしたね。
「ありがと…
ねぇ、楽器屋に行ってもいい?」
『!行きたいです!』
手をしっかり握って、他愛もない話をしながら、楽器屋に向かった。
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時