十一話 ページ11
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隣で鼻歌を微かに歌っているAちゃん。
部屋着から着替えたらしい。
昨日とは打って変わって、白い花柄のワンピースを着ていて、まるでお嬢様のようだった。
…もしかしたら、本物なのかも?
小鳥遊、音楽、金持ち…いやいや、まさか。
『真冬さん、靴を買ってもいいですか?』
「ん?あぁ…買った方がいいね」
靴は昨日履いていたニーハイブーツしか持ってきていないらしく、確かにアンバランスだ。
ショッピングモールに着いたら、まず靴屋に行った方がいいかもしれない。
「そういえば、Aちゃんってメイクしないんだね」
『メイク道具がカバンに入りきらなかったし、可愛く見せたい相手もいないので…』
そう言って苦笑した。
バンドの時はメイクをしていたが、あれはバンドメンバーの子にメイク道具を借りていたらしい。
まぁ、メイクしない方がいい気もする。派手なメイクをするより、そのままの方が可愛い。
ショッピングモールに着くと、Aちゃんは花を飛ばしているように見えた。
…表情豊かだよなぁ。
靴屋では、あまりヒールが高くない白のハイヒールと、スニーカーを買っていた。
奢ろうとしたけど、拒否される。
なるべく十万円を減らして欲しくない、と思ったけど、意地でも買わせてくれなそうだったので諦めよう。
ハイヒールに履き替えると、今日の服にぴったり。
くるりと回り、俺の方を見てわざとらしく尋ねた。
『どうですか?』
「似合うね!可愛い」
素直に言うと、照れて小さく『ありがとうございます…』と言った。
…何だか俺も恥ずかしくなるからやめて欲しい。
「次、布団買いに行こうか」
『はいっ』
流石にベッドは買えない。置くところがないし。
布団と、部屋着を何着か買ったところで気が付く。
「あれ、そういえば大学って行かなくていいの?」
『土日は講義取ってなくて…』
週五で平日、大学に行っているらしい。
珠羅大学の法学部…凄い…
『…勉強とバンドしか、なかったので。
バンドもなくなって、勉強だけになっちゃいましたけど…』
「あ…ごめん」
物凄く気まずい雰囲気になり、沈黙が走る。
居心地が悪くて、トイレを理由に逃げ出した。
「…はぁ、バンドの話は禁句なのに」
手を洗いながら、溜息を吐く。
楽器屋に行きたかったけど、今日はやめておこうかな…
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時