私も生きてたのに

弐拾壱 ページ21

炭治郎が全集中・常中を会得して、俺と伊之助も出来る様に特訓していた。
訓練が終わって病室へ戻っている途中、伊之助がとんでもないことを言った。



「そう言えば、裏山でAって奴に会ったぜ。」



えっ、と炭治郎は立ち止まった。そして伊之助に詳しく問い詰める。



「黒髪で緑の目してたぞ。子供だった。」


「今…今！何処に居るか分かるか！？」



「知るかンなモン」と食い気味に来る炭治郎を伊之助は振り払う。
俺も一度、Aちゃんに会ったけど、何も言わないで、と禁じられているから何も言えない。

けど、やっぱり言わない方が正解だ。
炭治郎、かなり混乱してる。それで戦いに支障をきたしたりすれば、これこそAちゃんが悲しむ。
けど、知ってしまったことは忘れようが無い。



「善逸は何か、知っているか？」


「えっ、あ…知らない。ごめん。」



俺からは嘘の匂いが漂ってるんだろう。けど、炭治郎はそれを指摘することは無かった。

病室でぽーっとしていたら、「失礼します。」と誰かが入ってきた。



「Aちゃん！来てくれたんだ。」


「はい、今日は人手不足なのでお手伝いなんです。」



Aちゃんはきょろきょろと炭治郎が居ないのを確認する。
人手不足と言うのは、今日はなほちゃんが風邪ですみちゃんが看病してるって聞いたから、多分それだろう。

俺は、先程のことを全て話した。



「炭治郎、Aちゃんが生きていて近くに居るってこと、知ったんだ。」


「そ…うですか」



嬉しさと怯えが混ざって複雑な音がする。



「その内会ってしまうだろうから、心の準備、しといた方が良いと思う。」


「私は…どんな顔をして、会えば良いのでしょう」



確かに、Aちゃんの立場で考えれば、嫌われていると思われる兄に会ってしまう。
Aちゃんは炭治郎を思ってこそ、炭治郎の荷になりたくないんだろうな。



「私、はしたない鬼何です。幻滅されます。」


「はしたない…ってそんな訳無いよ。」


どんな鬼なのか聞く。



「…接吻で、生きているんです。」



接吻？あの接吻？俺の顔が赤くなっていくのが分かった。
けど、そんなのAちゃんがなりたいと思ってなった訳じゃ無いんだし、そんな運命を課せられてAちゃんは生きているのだから、立派じゃないか。



「炭治郎は受け入れてくれるよ。」



俺はそう言って励ます。ただの励ましだけの言葉では無くて、心からの言葉。
落ち着いてもらえる様に、簪で纏められている髪を撫でた。


その時、病室に人が入ってきた。





「………A？」




…炭治郎。

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