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(Abe side)
「ん？どうしたの？」
「いや、何でもないです」
俺が聞き返しても、ラウールくんはそうして言わなかった。
きっと、気付いたんだろうな。
俺もラウールくんを真似て気付いていないフリを、気付かれたのに気付いていないフリをするけど、心の中で言わせて。
俺なんかを気遣ってくれてありがとう。
恋愛の世界ではおそらく、彼の立場からしたら俺は恨まれたって仕方ないのに。
でもこの予想も理屈でしか分からない。ごめんね。
「...アドバイスなんてものじゃないけどさ」
「...え？」
「俺は、ラウールくんもAも、もっと幸せになってほしい。そう願うことだけが、俺が出来るちっぽけな最大限なんだけど」
ラウールくんの大きな瞳が俺を真っ直ぐ捉える。
「友達への好きでもない、家族愛でもない特別な気持ちを持てるのなんて奇跡だし、だからこそ無駄にしてほしくない。
どうするかはラウールくんが決めることだけど、ラウールくんが望んでるものが、待ってるだけで降ってくるものじゃないんなら尚更」
俺にも言えることなんだけどね、と笑顔を見せて付け足した。
俺が望んでいることは、家族に自分のアイデンティティを受け止めてもらうこと。
言うも言わないもタイミングも自分の勝手だけど、いつかちゃんと話したい。
「ありがとうございます、阿部先輩。自分なりの決心つけられた気がします」
「そっか、よかった。とにかく俺は、２人の味方だから」
「僕もです」
「え？」
「僕もAさんも、阿部先輩の味方です」
「ありがとう」
心の中だけじゃなく言えた。
今まで以上にラウールくんと心を通わせられた気がした。
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作者名：キキララ
| 作成日時：2022年12月1日 17時
