54*疾走。 ページ7
「二宮くん、私…行かなきゃ」
「へ？」
二宮くんが、目を丸くした。
「どうしても…伝えなきゃいけないことが、ある人がいて」
「…大切な人？」
「…うん」
頭の切れる二宮くんは、きっと何かを察したんだろう。
「オレの用件、これだから。大野さんからの伝言渡す、ってやつ」
「ありがとね」
「さっ、相葉さんちでも行ってきますわ」
さよならー、って、マフラーを巻いてカバンを持った二宮くんは、教室を出て行った。
3年B組の教室を出て、A組の前を通る。
入り口の窓からいつも見える、教師の顔をした彼の姿を思い出した。
誰かに想いを伝えるために、カバンを抱えて全力疾走するのなんて、漫画と映画の世界だけだと思ってた。
しかも、そんなの女子高生だけだ、って思って、青春映画は苦手だった。
だけど、当時の私に教えてあげたい。
大人になって、重い鞄を抱えたって、抱えきれないくらいの想いを抱えて死ぬ気で走る、って本当にあるんだよ、って。
「はあっ…はあっ、翔くん」
やっぱり、いた。
翔くんは毎週金曜日、新刊が出ると駅前の本屋さんに立ち寄って、
お気に入りの一冊を探す。
それをじっくり時間をかけて読んだ後、その本は私に回ってくる。
翔くんのおかげで、読んだことのない本を沢山読んで、色んなことを覚えて、色んな気持ちになった。
彼の選ぶ本は、外れなんてない。
それは、本に外れがないんじゃなくて、
翔くんが選んだから、当たりなのかもしれない。
だから今日も、ここに来れば翔くんがいる、って、
私は根拠もないのに確信してた。
「A？」
本屋さんの入り口から出てきた翔くんが、私の姿を見て、目を丸くした。
「翔くんに、言わなきゃいけないことがあって」
「なに？…怖いんだけど」
翔くんは少し、眉毛をひそめる。
そりゃあそうだ。
いつも通り本屋さんを出たら、待ち伏せされて、言わなきゃいけないことがある、なんて
怪しいのは私だって分かってる。
「やっと気付けたの、私。昔の思い出にばっかり囚われて、動けなくて…。そんな私をいつも前に押してくれたのは、翔くんだった」
「A…？」
ポカンと空いたままだった翔くんが、形の良い唇をキュッと結んだ。
「翔くんがいたから、沢山笑えて、辛いこと吐き出せて、ここまでやってこられた」
「急にどうしたんだよ…」
「これまで言えてなかったけど、本当にありがとう」
思いっきり、頭を下げた。
まずはありがとう、って伝えなきゃ、そう思って来ただ。
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とも(プロフ) - 初めまして。とても素敵なお話で…ちょっとうるうるしちゃいました。智くん担の私的には…智くんと…って思ってしまいましたが。翔くんの甘く切ない気持ちが心に響きました。 (2020年6月30日 13時) (
レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
ゆうにゃん - めっちゃ楽しみです(≧∇≦) (2020年5月19日 1時) (レス) id: 8772c16e2a (このIDを非表示/違反報告)
璃夢(プロフ) - sＨoさん» sHoさん、コメントありがとうございます。見つけて、読んで下さってとても嬉しいです！卒業式のシーンは、書いている私も泣きそうになってました笑 これからもどうぞよろしくお願いいたします(^ ^) (2020年4月19日 15時) (レス) id: bc361fa2d6 (このIDを非表示/違反報告)
sＨo(プロフ) - はじめまして。昨日、ふと、この作品に出会い…読み終えました。卒業式では一緒に泣きながら（笑）素敵なお話、ありがとうございました。 (2020年4月19日 2時) (レス) id: 333f9c0231 (このIDを非表示/違反報告)
璃夢(プロフ) - みかぽさん» みかぽさん 完結まで支えてくださって本当にありがとうございました。seasonぜひ聞いてみてくださいね^ ^ これからもよろしくお願いします！ (2020年4月18日 22時) (レス) id: bc361fa2d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：璃夢
| 作成日時：2020年1月16日 22時
