52*心の鍵。 ページ5
「ねえA先生」
残りも少なくなった授業を終えて教室を出ようとすると、ちょっと高めな声に呼び止められた。
くるっと振り返ると、茶色い瞳が私をじーっと見つめてる。
「二宮くん、どうしたの?」
「ちょっと話、良い?」
「ええ、もちろん」
あとでねー、って二宮くんはそのまま席に戻っていった。
「あれ?帰らないの?」
「うん、ちょっと呼び出し」
「呼び出し?」
朝と同じようにマフラーくるくるっと巻いた翔くんが、私を不思議な目で見る。
「二宮くんが、私に話があるっていうから」
「ふーん」
じゃあ先帰るわ、って翔くんはバッグを掴むと職員室を出て行った。
「あのさ」
3-Bの教室。彼らがここで学び、過ごすのもあと1ヶ月を切ってしまった。
「先生が前に言ってた、この学校から海外行ったすごい人」
「…あぁ、大野智さん?」
「オレ、この前ばったり会ったんだ」
「へっ?」
大野先輩がこの町にいる、っていうだけで、なぜか胸の鼓動が速くなる。
「町で個展やるから、その準備だってさ」
「そっか、そろそろだもんね」
前に先輩からもらった個展のチケットは、朝目が覚めたらテーブルの上に置いてあった。
きっと、翔くんが置いておいてくれたんだろう。
「先生、大野さんの2個下だったんだね」
「うん、そうよ」
「で、美術部」
「…うん」
あんまり積極的に話すのは得意じゃない先輩が自分の事を話すなんて、
きっと2人は何か通じるものがあったんだろう。
部員2人だったから、ずーっと一緒にいた、って言ってた」
懐かしいねぇ、ってふにゃんと笑う大野先輩の姿が、容易に想像できる。
「A先生はね、今でも特別なんだって」
ココアを飲みながら、さらっとそんなセリフを言ってしまう大野先輩の姿も、まぶたの裏に浮かぶ。
でもその「特別」は、恋愛的な意味じゃない、ってことは嫌でも分かる。
「先生も、特別だったの?」
中学生っていうのは、純粋で純粋で、そして時として、
大人になってしまった子供の、封じ込めた心の鍵をこじ開けてしまう。
「特別…だったよ」
プライベートな事は答えません、って言うはずだったのに、私の口は勝手に動いてしまう。
「好きも尊敬も全部、大野先輩」
あの頃の私は、先輩の姿以外の何も見えてなかった。
「先輩のこと考えてたら胸が詰まる思いだった」
二宮くんの澄んだ瞳は水晶玉みたいで、嘘なんかついても見透かされてしまいそうな、そんな気がする。
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とも(プロフ) - 初めまして。とても素敵なお話で…ちょっとうるうるしちゃいました。智くん担の私的には…智くんと…って思ってしまいましたが。翔くんの甘く切ない気持ちが心に響きました。 (2020年6月30日 13時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
ゆうにゃん - めっちゃ楽しみです(≧∇≦) (2020年5月19日 1時) (レス) id: 8772c16e2a (このIDを非表示/違反報告)
璃夢(プロフ) - sHoさん» sHoさん、コメントありがとうございます。見つけて、読んで下さってとても嬉しいです!卒業式のシーンは、書いている私も泣きそうになってました笑 これからもどうぞよろしくお願いいたします(^ ^) (2020年4月19日 15時) (レス) id: bc361fa2d6 (このIDを非表示/違反報告)
sHo(プロフ) - はじめまして。昨日、ふと、この作品に出会い…読み終えました。卒業式では一緒に泣きながら(笑)素敵なお話、ありがとうございました。 (2020年4月19日 2時) (レス) id: 333f9c0231 (このIDを非表示/違反報告)
璃夢(プロフ) - みかぽさん» みかぽさん 完結まで支えてくださって本当にありがとうございました。seasonぜひ聞いてみてくださいね^ ^ これからもよろしくお願いします! (2020年4月18日 22時) (レス) id: bc361fa2d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:璃夢 | 作成日時:2020年1月16日 22時