雨滴雨声、雨翔 【オリジナル】

01.　地雨　/1 ページ2

秋霖高校では、梅雨の時期になるとクラス……いや、学校中で奇妙な噂が一斉に流れ始める。
　それは誰かが作った噂ではなく、七不思議のような類のもので、五年くらい前から伝わっているのだそうだ。当時の先輩から後輩へ、後輩からその後輩へと。
　長期間に渡って伝わってきたその噂は、私の代にも徐々に広まりつつある。

　雨の日に現る、男子学生の幽霊。
　……ざっと主旨を言ってしまえば、こうだろう。
　内容はそのままで、雨の日になると、この秋霖高校に男子学生の幽霊が現れる、というもの。

　噂は生徒から生徒へ伝わる過程で、色々な設定が後付けされていった。例えば、誰かに殺された地縛霊だとか、ある人を探して彷徨い続けているだとか、更には目を合わせると死んでしまう、だとか。
　最近ではその幽霊は人間ではなく妖怪か化け物である、というトンデモ設定まで付けられたらしいが、そういう類はいつしか消えていくのだ。

　ちなみに、メインが男子学生のせいなのか、この噂は女子を中心にして広まっている節がある。
　実は超絶イケメンの細マッチョなクール男子学生とか、まさに自らの理想を彼に当てはめて広める女子もいるようだ。
　真偽は分からないが、生徒たちは古くから伝わってきたその噂をお遊び感覚で取り扱っているようだった。話題のネタとして時々取り上げられる、それくらいのただの噂。
　今でも幽霊を探す肝試しが流行っているくらいだ。
　根拠のない噂とは結局、その程度なのだ。



「A！」

　今日もジメジメとした雨の日。
　丁度梅雨に入った時期なのだろうか。ふと窓に目をやると、灰色の空からしとしとと雨が降っている。昨日から降り続けている、長い雨だ。

　背後から声をかけられた私は、開いていた本を閉じながら振り向く。
　後ろから目の前へやってきた、茶髪を後ろで一つ結びにした女子。一目で活発な少女だと分かる彼女は、私の貴重な友人の一人である。
　誰でも分け隔てなく接する彼女の性格に、何処か捻くれている私でも「いい人」だと素直に思える。

　彼女は新名晴香。
　一年生からの友人だ。

「A、今日こそ付き合ってもらうよ？」

　前屈みになりながら、私に指を指してくる晴香。その先を察したような気がして、思わず眉根を寄せてしまう。

「晴香……それって」

「勿論、男子学生の幽霊探しに決まってるじゃない」

　ですよね。
　無意識に深いため息が出た。

　2　→←00.

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