01.彼の言葉 ページ1
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両親の仕事の都合で、兵庫県に引っ越してきて数ヶ月。
ここでの生活も無事に落ち着いて。
友人もそれなりにでき、1番不安だった関西の言語の壁もなんとか馴染んできた。
少し前までは引っ越し先のご近所に住んでいる双子が、
こちらの言葉を必死にレクチャーしていたけど最近はどうやら諦めがついたらしい。
そんなありふれた高校2年のある日のこと。
「なあ、Aちゃん」
次の英語の授業の小テストに向けての予習中。
真後ろの席から気の抜けたようなのんびりとした声がした。
単語帳に視線をむけたまま、んー?と返す。
ちなみに先程話した双子の一人がこの男、宮侑くんである。
「ウチの角名がな、Aちゃんの事めっちゃ可愛い言うてた」
「………は?」
きっと意味のない、変なことを言うだろうと思ってたのに。
聞こえてきたそれは想像以上に意味深なものだった。
「え、……わたし?」
「おん。なっ、銀!」
少し離れた席。私と同じく予習中の銀島くんを呼ぶ。
「んあ?………ああ、せやな」
なんのこっちゃという顔をしながら、
銀島くんは単語帳から少し顔を上げて返事した。
…………すなくん、か。
確か隣のクラス、1組さんにいたような気がする。
あれ?下の名前なんだっけ。
前にクラスの子たちが彼のことを、
なんか可愛らしい愛称で呼んでいたような……
なんだっけ。ええっと。
「あ、せや!」
「おぅっ!?」
パンッ!と耳元で勢いよく両手を叩かれて正気に戻る。
おかげで女性らしからぬ声を出してしまった。
たまに思うけど侑くんは所々容赦がない。
「次の休み時間に角名んとこ行こ!」
「え?」
そして展開が早い。
「やだよ。まず話した事ないし」
「なぁに弱気になっとるん。乙女ぶんなや」
「腹立つぅ……」
容赦もなければ配慮もない。
なのに女の子にモテるのだから不思議なもんだ。
「なあ1組行こうや。なぁなぁ」
「行かない。あ、もっ、イス揺らすなっ!」
がたがたと背もたれを掴まれて前後に揺さぶられる。
無性に腹が立って単語帳で叩きそうになった。
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作者名:. | 作成日時:2020年1月29日 23時