花散る前に雪よ舞え【太宰治】

4.先輩 ページ5

Aside








｢よし…｣







事務仕事は終わった






時刻はもう夜


事務員の方の殆どは帰る支度をしている






私が遅いからもうこんな時間かあ




今日も一日、社にいたのに




そう云えば私、一応調査員なのに殆ど外出ることないよなと不意に思った






まあ仕方ないか

この足だし、ね








今日も事務仕事と依頼人の応接




事務仕事は元々パソコンなんか触ったこと無かった私にとっては苦痛で
国木田さんには誤字脱字が多いと注意されるし






応接は私の人見知りパワーで依頼人困らせちゃったみたいだし





社の皆を困らせてばかりだ







｢はあ…｣






ほんとに解任するのも時間の問題、か







どうしよう、私探偵社をぬけたら行く手が無くなる






社の皆にも会えなくなるし






太宰さんには掃除係、辞めさせられるだろうし






また前の生き方に戻っちゃう



そんなの厭だ








どうやったら機械音痴は治るだろう


人見知りは治るだろう







｢大丈夫だよ、Aに解任なんてないさ｣






｢え？！｣








隣にいたのは与謝野先生








｢き、聞こえてましたか…？！｣







｢嗚呼、心の声が漏れたように、ねえ｣









自分でも顔が赤くなっているのがわかった





恥ずかしすぎる




でも、解任が無いって






｢ど、どうして…解任がないって判るんですか
私…なんにも出来ないし｣









｢そんな事ないよ
ほら、あの花
毎朝Aが世話をしてくれているから元気だろう？｣









花…



見てくれている人がいたんだ






そう思うと嬉しくなった









｢後、Aの煎れる珈琲は美味しいって国木田とか皆が云ってたよ｣









｢…ホントですか｣









｢目がキラキラし過ぎだよ｣






与謝野先生はクスクス笑った








｢あ、そんな事云われたこと無くて…つい｣








私は急に恥ずかしくなりパソコンに目を向けた









｢そう云えば、新聞を読んでいなかったねェ｣







与謝野先生はそう云って会議室へ向かおうとした






｢Aも一緒にどうだい？｣









｢はい！｣





真逆、誘われるとは思っていなかったのでいい返事と同時に微笑んでしまった








｢あっ！｣








与謝野先生は私の様子を見てにこやかに微笑んだ

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