**60 side廉 ページ11
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「···ん」
「あ、ありがとうっ···」
これでもかと、強く抱きしめた。
色んな感情がグルグルと駆け巡り
Aの首筋に顔を埋める。
何やこれ、無理やろ。
こんな···一週間も耐えられんわ。
せめて父さんと早織さんがいれば
歯止めも効くし安心なのに。
好きな子に抱きつかれて
平然でいられるほど俺は大人じゃないわ。
「廉くん?」
強く、強く抱きしめる。
俺の異変に気づいたのか
Aが名前を呼んできた。
わかってる。
付き合ってるだなんて噂されてるけど
俺たちは付き合ってない。
所詮は俺の片想いで
Aは俺のこと当たら家族としか思ってない。
でも、俺は···
「A···」
頼むから、そんな無防備な瞳で見つめないで。
Aは分かってない。
自分がどんな目で見られているか
俺がお前をどういう目で見ているか────。
「廉くんは温かいね。安心する···」
俺の胸に顔を預け
そんな呑気なことを言うA。
「ばか。煽んな」
「え···?」
Aは男が苦手で
でよ俺には警戒心を解いてくれているから
ゆっくりと距離を縮めていこうと思ってた。
けど、無理や。
こんな···男として見られていないみたいな扱い
耐えられへん。
「なあ、A」
「ん···?」
「···俺が男って分かってる?」
雷の音が鳴り響く。
けれどAは驚くことも震えることもしなかった。
雷よりも他の男に驚いていた。
Aが顔を上げる。
目を見開いて俺を見て
そして小さな唇が開かれた。
「黒崎、くん···?」
───ああ、そうやった。
俺も今思い出した。
あの日、最後に言葉を交わした日
俺がAに告げた最後の言葉は────
『 Aさんさ、俺が男ってわかってる? 』
···覚えて、たんか?
俺とAが見つめ合い
この空間だけは時が止まったようだった。
雷はもう鳴ることはなかった。
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作者名:なっちゃん | 作成日時:2020年7月25日 0時