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5話 ページ6

バケツと柄杓を片付けながら、なんとなく続いていた沈黙を破った。



『降谷さん、付き合ってくれてありがとうございました』

「いいよ。俺も1度挨拶しときたかったしな」

『挨拶?なんて言ったんですか?』


そういえば降谷さんも随分長い間手を合わせてくれていたっけ。

私の言葉に、降谷さんは何故か言葉を詰まらせる。

そして目をそらして、ぶっきらぼうに続けた。


「…別になんでもいいだろ」


なんだか降谷さんの顔がちょっとだけ赤い気がする。

あんまり見ることのない珍しい表情。…え、なんで今!?


『ええー?なんですか?気になります!』

「お前は知らなくていいんだよ。ほら行くぞ」


降谷さんは半ば強引に話を終わらせて先を行ってしまう。

そのあとを慌てて追いかけた。



『待って下さいよ〜!降谷さん降谷さん、せっかくですしこのへん少し散歩しませんか?』

「散歩?いいけど…」

『やった!ありがとうございます!』


了承を得られた瞬間、車を停めた場所と逆方向に足を踏み出した。

海風が通り抜け、私の麦わら帽子を揺らす。

傍にある家の洗濯物がバタバタと音を立てる。


今まですっかり忘れていたものの、来てみれば記憶も甦ってきた。

見覚えのある道と建物にキョロキョロしながら、海を背に坂道を上る。



『15年経っても全然変わってないです!』

「そうなのか?」

『はい!あそこのお店でよくアイスを買ってたんです。
あ、あの釣具店でエビを買ってアジとか釣ってました!』


へぇー、と降谷さんの興味深そうな声が聞こえた。

降谷さんは都会育ちだもんなぁ。釣りくらいはやったことあるだろうけど。



『意外と覚えてるもんですね!もう家に着いちゃいますよ!』


私がそう口にした時、降谷さんの顔が一瞬引きつった。

それに気づかなかったのは、多分…鮮やかな思い出を引き出していくことに夢中になっていたからで。

記憶の中にある黄色の小さな一軒家を思い起こしていたからで。

バカな話だよね。ちょっと考えればわかることなのに。



『ここを登って、この角を曲がったところに家が───』


なんて言いながら古びた建物を曲がった先。

そこには、ただポツンと小さな空き地が広がっていた。

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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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立夏(プロフ) - 利茄さん» ありがとうございます! (2020年4月23日 0時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
利茄 - 面白い! 青井と犬子は、吹きましたww もう、最高ぉーーーー! もし、よかったら、私のも、読んで 下さい! (まだ、完成してないけど) www (2020年4月22日 0時) (レス) id: 1a3e36626c (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - りーぬ@天使が尊いさん» ありがとうございます!!犬井犬子のくだりの時はたまたまポアロの近くを歩いてただけなので行ってないですよ〜! (2020年4月8日 20時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
りーぬ@天使が尊い(プロフ) - すっっっっっっっごくおもしろかったです!!!!!31話で主人公ちゃんがポアロに行ったことないって言ってるんですけど犬井犬子のくだりのときに行ってませんでしたっけ??思違いならすみません(((^^;) (2020年4月8日 16時) (レス) id: 181f09b6df (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 立冬さん» お前wwwwありがとうございます!!!ww (2019年2月6日 17時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:立夏 | 作成日時:2018年8月8日 22時

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