降谷さんが狂犬と付き合い始めたらしい。【降谷零/安室透】

14話 ページ15

『降谷さーん！そろそろ起きた方がいいですよー！！』


ドアのそばから飛んできたバカでかいその声で目を覚ました。

声の主は言い終わらないうちにまたバタバタと慌ただしく廊下を駆けていく。

いつもの如く朝からやかましいな…

差し込む朝日に目を細めながら体を起こし、部屋から出た。

と、既に支度を終えたらしいAが目の前にぴょこんと立った。



『降谷さん、私今日は早く行かないとなので先に出ますね。後で本庁でお会いしましょう！』

｢あぁ、わかった｣


頷いて、玄関までは見送ろうと靴を履くAを壁にもたれて眺める。

すると突然、ピコンとAの携帯が鳴った。

Aはそのメッセージの通知を横目で確認し、『えっ』と声を上げる。

まだ少し眠いのもあって特に気に止めずそれを見ていたら、Aがソロリとこっちを見た。


｢…どうかしたか？｣

『えっ！？あ、いや、えーと…』


なにか言いたいことでもあるのかと声をかけたが、Aは慌てて目を逸らす。

ピコンピコンと続けて鳴った通知に、『ええぇぇ』と声を漏らした。

なんだ…？ていうかさっきから誰からメッセージが来てるんだ。

こいつがやりとりするのなんて俺か志保さんくらいだと思うが。


Aは『あー』とか『うー』とか呻きながら靴を履き終わる。

そして少し目をうろつかせてから何かを決心したように俺を見上げた。


『降谷さん』


名前を呼ばれて手招きされる。

不思議に思いながらもAに歩み寄った。

Aがナイショ話をするように口元に手を添える。

どうせ二人しかいないんだから普通に言えばいいのに、と思いながらも彼女に耳を近づけた。


すると次の瞬間、声は聞こえてこずに、代わりに頬に柔らかいものが当たった。

本当に一瞬で、すぐにAは離れて、だけどそれが何かを理解できないはずもなくて。



｢…………え？｣

『いいいってきますっ！！！』

｢あ、おい！？｣


頬を真っ赤に染めた彼女はそれだけ叫んで部屋を飛び出す。

転がるように階段を駆け下りる音が響いた。

しん…と静まり返った部屋で、頬を抑えて扉を見つめたまま固まる。

そのまま壁に背をついた。



……え、なに今の。

夢じゃないよな？俺ちゃんと起きてるよな？

あれだけ照れ屋で慣れてなくて毎回逃げ回っていたAが、自分から頬にキスだなんて。


｢…あー、やばい｣

顔が熱い。頬が緩む。

本庁に着くまでには取り繕わないと、と思いながらノロノロ支度を開始した。

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