降谷さんが狂犬を飼い始めたらしい。【降谷零/安室透】

25.千草色 ページ27

突如鳴り出したベルにどよめきが起こる。


『火事ですかね？』

｢さあな。焦げ臭い匂いもしてないが……
歩けるか？｣

『あ、はい。もう大丈夫です』


掴んでいたままだった手首を引っ張って立たせた。

上映中の作品を見ていた人たちもスクリーンから出てくる。

時間も遅いし大して人も多くないが、誰も原因がわからないようで困惑している。


するとすぐに避難して下さいとのアナウンスがかかった。

…理由を言わない時点でなんとなく察することはできるが、まさかな…

嫌な考えが頭をよぎった直後、風見からメールが届いた。

出口を出たところで携帯を開く。

そしてその文面を見て、思わずうわ…と顔を顰めた。

やっぱりかよ……



『降谷さん？どうかしましたか？』

｢ん｣


隣を歩くAに携帯を見せる。

『わお…』と微妙な返事が返ってきた。


予想通り、というかなんというか。

この映画館に爆破予告が来たらしい。

その情報を聞き、俺達が今日ここに来ることを知っていた風見が連絡してくれたようだ。



出口の外には眩しいくらいのパトカーの灯り。

見慣れた捜査一課の刑事たちが降りてくるのが見えた。

…って新一くんまでいるじゃないか。

彼が扱っていた事件に関わっているのだろうか。


なんにせよ、これだけ顔ぶれが揃っていれば万が一にでも出る幕はなさそうだな。

新一くんがいるあたり、恐らく爆破予告はイタズラではないのだろうけど。

予告時間はもうすぐだし解除している暇はなさそうだ。

一応最後までいるか、と足を止める。

が、その時Aが俺の袖を引いた。



『あの、降谷さん』

｢ん？どうした？｣

『あそこにいるの、さっきの老夫婦のおじいさんですよね？おばあさんが隣にいなくて…』

｢え？｣


彼女が指さした方向に目をやれば、確かにさっき隣の席だった老夫が１人でいる。

しかも焦った様子でウロウロしている。

彼に話を聞こうとパタパタ走っていったAのあとを慌てて追った。


『おじいさん！おばあさんはどうしたんですか？』


人が多いせいでうまく近づけなくて、その質問の答えを少し離れたところで聞く。

しかし断片的に聞こえたセリフは、最も聞きたくない内容だった。



｢途中ではぐれた｣｢ずっと探してるが見つからない｣｢あいつは足が悪い｣｢もしかしたらまだ中に｣



駆け出したのは、Aの方が早かった。



｢あ、おい！待てバカA！｣

その声は、零時になった瞬間の爆音にかき消された。

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