可愛くないキミの落とし方 ２【降谷零/安室透】

後日談8 ▽Liquor ページ34

降谷side


バカみたいに酒に強いAだって、メンタルがへばってる時は潰れる。


そのことは一応知ってはいた。

でもこれはいつか本人が言っていただけであって、実際に見たわけではなかった。


Aは案外自己管理をしっかりしていて、調子の悪い時は絶対に人前で酒を飲まない。

仕事で失敗した時も、誰かが殉職した時も、落ち込んでいる期間はAからの酒の誘いはパッタリやんでいた。

俺も理由がわかっていたから誘わなかった。


だから、俺は１度もAが酒にやられてるところを見たことがなかったのだ。

彼女が酔っ払うとどうなるのかも知らなかった。


それがまさか、今日こんな時にお目にかかることになるだなんて、誰が想像しただろうか。



『ふぇぇぇ怖かったあぁぁ零のバカぁぁぁなんであんな無茶するのぉぉぉぉ』

｢えぇ…ご、ごめん…？｣



さっきからずっと泣き続けているAの周りにはおびただしい数の酒の缶。

それでも普段のAなら全く問題ないような量だ。

けれど顔を赤くしてボタボタ涙を零すAは、どこからどう見ても完全に酔っている。


こ、こいつ泣き上戸だったのかよ…

頭を撫でても涙は留まることを知らず、溢れ続けるばかり。

もうしばらく泣き止みそうにない。



にしても、メンタルやられてる時しか酔わないんじゃなかったのか…？

泣き声に混じった言葉を聞いている限り、どうやら今日のことを怒っているようだが…


今日は公安の仕事の日だった。

追っていた標的の拠点に突入して、バランスを崩した部下の１人をかばって足に銃弾を喰らって、おまけにギリギリで爆発物を見つけて。

そんな割とやばい状況下だったが、なんとか無事に外に出れたのだ。


今回、外で待機していたAは、俺の足を見るなり目を丸くして駆け寄ってきた。

しかしその時も、
『なにそれどうしたの』
｢転んだ｣
『ドジっ娘かよ』
といつものように軽口を叩きあって終わった。


そのはずだったんだが…



『バカバカバカ！あんたの怪我見るたび心臓止まりそうになるこっちの身にもなってよぉぉ！』


…想像以上にAのメンタルに大ダメージを与えていたらしい。

そしてそのまま酒を飲むA。

完成するは泣き上戸の酔っ払い。

そういうことだろう。


｢はいはい、とりあえずもう酒はやめとけ｣


Aの手から缶ビールを取り上げながら、今夜はひたすら話を聞くしかなさそうだと覚悟を決めた。

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