可愛くないキミの落とし方【降谷零/安室透】

20話 ページ21

『あの…降谷さん…』

｢なんだ｣


返ってきた低い声の主は、さっきからずっと仏頂面。

さっきというのは、あの嵐のようなお坊ちゃまが来てからだ。


『な、なんでそんな不機嫌なんですか…』


恐る恐る聞いた言葉に、零は更に面白くなさそうに眉を寄せた。


｢別に不機嫌なんかじゃない｣

『まさかその返答が来るとは思ってなかった』


無自覚かよタチ悪いなこの野郎。

昔から思ってたけど、こいつ意外と子供っぽいわよね…

割とすぐ拗ねるし素直じゃないし、“安室透”とはえらい違いだ。

仏頂面はいつものことかもしれないけど、不機嫌になるととにかく目が怖い。眼力で人殺せそう。



なんて考えながら、パーティーの監視は続く。

うーん…もうすぐお開きだけど、特になにも怪しいところはないな。

なにかの受け渡しがされた様子も見ていない。



｢A、移動するぞ｣

『了解』


小声で言われた言葉に小さく頷く。

ん、ちょっと機嫌が直ったかな。

声のトーンが普段通りになった。


まったく、なんで潜入中に上司のご機嫌を気にしなければならないんだ。

ここまで零の気分の浮き沈みを把握できるのは私くらいのもんだろう。



そんなことを考えながら零の後をついていくと、彼が急にパッとこちらを振り向いた。

考えてることがあれだっただけに、意味もなくギクッと足を止める。

対して零は、躊躇うように少し目を泳がせた。



｢……あのさ、A｣

『ん？』


零はしばらく何も言わずに、私のことをじっと見つめる。

そして、やがてゆっくり口を開いて静かに告げた。



｢綺麗だよ。それ、似合ってる｣


『………へ？』



………え、なに今の。

もしかしなくても褒めてくれた？

最初に私が聞いたことの答えを、今更言ってくれたのだろうか。


目を逸らさずに正面から言い切った零に、ぶわっと顔が熱くなるのがわかった。

い、いや待って。だって急にこんなこと言われるだなんて思ってなかったんだ。

思わぬ言葉に、年甲斐もなく本気で照れてしまう。

火照った顔を見られたくなくて、私は顔を逸らして素早くスマホを開いた。


『あ、もしもし風見さん？零の様子がおかしいんですけどどうしましょう』

｢お前ほんっと可愛くないよな…｣



＊

この後、結局取引現場は確認できなかった。

私たちが見逃したか、それとも行われなかったか。

それは現時点ではわからないけれど、この日をきっかけに私はとんでもないことに巻き込まれてしまうのだった。

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