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それから俺とAの距離は、ちょっとずつではあるもの時間をかけて近づいていったように思う。
時々ご飯を作りに行ったし、一緒に食べることもあった。
何度も会っているうちに最初よりも笑ってくれるようになったし、周りが思うよりもずっと感情が豊かな子であることも知った。
正直俺も、無駄な気遣いや取り繕いを求めてこないAといるのは楽だった。
いつの間にかAの部屋で、Aの隣で料理をすることが唯一とも言える楽しみになっていた。
それでもこの関係には終わりがある。
俺は公安でAはその保護対象。
Aの保護期間は彼女が中学を卒業するまで。
出会ってからの3年間、組織への潜入捜査が決まったりだとか色々あったが、それでも月日はあっという間に過ぎた。
そして、あれはAが中学3年生の冬。
…とはいっても、もう寒さも和らいできた卒業目前の時期だった。
たまたま街中を歩いていた時、下校中と思しき彼女の背中を見かけたのだ。
一緒にいる人は特に見当たらない。
近くに車を止めているし、マンションの前まで送っていってやるかと後を追いかけた。
しかし、その姿がはっきり見えた時、俺は思わず目を剥いた。
「A!?お前なんでそんなに濡れてるんだ!」
『え?…降谷さん』
慌ててその手を掴んで振り向かせた。
冷たすぎる。当たり前だ。セーラー服を身に纏った彼女は全身びしょ濡れ。おまけに今は冬だ。
おかしいだろ、曇ってるとはいえ雨は降ってないのに。
「一体なにやったんだ!?」
『…そんなに大きな声出さなくたって聞こえますよ』
誤魔化すように目を逸らしたAに勘が働く。
俺は視線が鋭くなるのを隠さずに訊いた。
「誰にやられた」
その問に一瞬Aの顔が強ばったことに、気づかないわけがない。
『違います、滑って川に落ちたんです』
「嘘つくなよ」
『…あなたには関係ないです』
「……」
手に力を込める。
Aは口を真一文字に結んで俯いた。
…言いそうにはないか。
俺はため息をつき、彼女の手を引いて車の方へ歩き出した。
「とりあえず帰るぞ。早くしないと風邪を引く」
『…はい』
Aが関わる人間なんてほとんどいない。大方同級生だろう。
後ろでくしゃみをする音が聞こえて歩くスピードを早めた。
確かに俺なんかが首を突っ込むべき問題ではないだろうけど、それでも怒りの感情はどこかで湧いた。
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羽(プロフ) - とっっても良い話でした!!最後にお話を更新されてからかなり時間が経っているのでもうログインされていないかもしれませんが、どうしても伝えたくてコメントさせていただきました…!素敵なお話を書いていただきありがとうございました! (7月8日 22時) (レス) @page38 id: 9862219e48 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 2周目です!!本当にいい話、、大好きです。書いてくださり、本当ありがとうございました。 (2022年2月4日 23時) (レス) id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
m - 立夏さんのお話、内容がししっかりしてて面白くて…他にも作品書いてるのかなって思ったら過去に読んだ事ある作品ばかりですごい驚きました!全部すごい好きな作品だったので…Twitterのフォロー失礼致します! (2021年8月31日 12時) (レス) id: a52571fa0a (このIDを非表示/違反報告)
りー - 叔母様いい人や!姉さんの事好きだったんやな(´;ω;`) (2021年8月22日 22時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 推しが尊いマンさん» わ〜!ありがとうございます!後半すごく悩みながら書いていたので本当に嬉しいです!最後までお付き合い頂きありがとうございました!! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2019年4月5日 20時