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嫌な聞き方するなぁこの子。小日向邸でどんな扱いをされてたんだ。

今日すべきことは全て終わった。もう俺は帰ってもいい。

けれど、時間にはまだ余裕があった。時計が指すのはちょうど12時。お昼時。

俺は立ち上がり、キッチンの奥にある冷蔵庫を勝手に開けた。


「うわ…ほんとになんもねえ…」

『降谷さん?』

「ちょっと待ってろ、食材買ってくる」

『え?なに言って…』

「今日はインスタント食うなよ」

『はい?ちょっと降谷さん!?』


彼女の声を無視して一旦部屋を出る。

近くの店で適当な野菜と材料を買ってまたマンションの最上階へ戻った。

隣でキャンキャン騒ぐAはダイニングに座らせてパスタを茹でる。

絶対この子野菜不足だ。これでもかというほどに野菜を盛ってやった。

ついでに適当に作ったおかずを空っぽの冷蔵庫に詰める。

出来上がった昼食をテーブルに置けば、彼女は目をまん丸にしてパスタと俺を交互に見た。


『……え?』

「食べろよ」

『え、あ…いただきます…?』


Aは状況がうまく飲み込めていなさそうな表情のままで手を合わせる。

そして戸惑いがちに一口食べ、ぱあっと目を輝かせた。

…意外とわかりやすいなこの子。

さっきの躊躇いなんて嘘のようになかなかの勢いで食べ始めるAを眺める。

大量の野菜を厭わず食べてるあたり、好き嫌いもなさそうだ。

俺は彼女がある程度食べ終わったのを見計らって声をかけた。


「これからは時間がある時は様子見に来るついでに何か作るよ。普段からちゃんと野菜も食べないとダメだぞ」


しかし、俺の言葉にAは手を止めて訝しげな表情を浮かべる。


『なんでそんなこと…』

「なんでって…その歳でそんな食生活してたら体に悪いぞ」

『でも、私があなたに返せるものはなにもないです。あなたが私のためにそこまでしてくれる理由もないでしょう』

「…君、ほんっと嫌な聞き方するな」


なんとなく読めてきた。

さっきから滲んでいた他人への不信感と諦めににたなにかは、小日向邸で大人達の汚い部分を見てきたからだろう。

見返りがなければ人は助けてくれないと思ってる。

ため息をついた。この年齢でこの考え方って…この子はなにも悪くないんだろうけど。


「いいから黙って甘えてろ。Aはそんなこと気にしなくていいんだよ」


綺麗な黒髪を雑に撫でた。

ポカンと目を見開いていた彼女は、その日初めて緩い笑顔を浮かべた。


『ありがとうございます、降谷さん』

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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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(プロフ) - とっっても良い話でした!!最後にお話を更新されてからかなり時間が経っているのでもうログインされていないかもしれませんが、どうしても伝えたくてコメントさせていただきました…!素敵なお話を書いていただきありがとうございました! (7月8日 22時) (レス) @page38 id: 9862219e48 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 2周目です!!本当にいい話、、大好きです。書いてくださり、本当ありがとうございました。 (2022年2月4日 23時) (レス) id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
m - 立夏さんのお話、内容がししっかりしてて面白くて…他にも作品書いてるのかなって思ったら過去に読んだ事ある作品ばかりですごい驚きました!全部すごい好きな作品だったので…Twitterのフォロー失礼致します! (2021年8月31日 12時) (レス) id: a52571fa0a (このIDを非表示/違反報告)
りー - 叔母様いい人や!姉さんの事好きだったんやな(´;ω;`) (2021年8月22日 22時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 推しが尊いマンさん» わ〜!ありがとうございます!後半すごく悩みながら書いていたので本当に嬉しいです!最後までお付き合い頂きありがとうございました!! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:立夏 | 作成日時:2019年4月5日 20時

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