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私が閉じ込められていたのはどこかの廃ビルだったらしい。
降谷さんのRX-7はそこから少し離れたところに停められていた。
ずっと繋いでいた手を離して車に乗り込む。
その瞬間、降谷さんは私に目を向けて口を開いた。
「おい!ICチップってなんのこと…」
『詳しい話はあとでします。桜小路の家に向かってもらってもいいですか?』
「え?桜小路の?」
『はい。私が幼い頃に両親と住んでいた家です』
郊外の小さな家だ。事件直後に連れていかれて以来行ってないけれど、まだあるはずだ。
ポケットの中に突っ込んだままのオルゴールを握りしめた。
『心当たりがあるんです』
*
当然、組織は既にこの家の中を全て調べ尽くしただろう。それでも出てこなかったから私を攫ったんだろう。
思った通り、鍵は完全に壊されていた。
まぁ何年も前から人の住んでいない空き家だから、組織が壊したかどうかはわからないけど。
誰かがいる可能性もあるため、降谷さんが慎重に足を踏み入れる。
その後ろをついていきながら、埃っぽい家の中を見回した。
何故か前に来た時よりもずっと馴染みを感じた。
オルゴールを回した時に見えた景色は、間違いなくこの家だ。
ひどい耳鳴りがして顔を顰める。
ピアノ…多分、この家のどこかにピアノがあるんだ。
オルゴールに重なって聞こえた。あれはピアノの音だった。
ひとつひとつの部屋を回っていれば、やがて着いたのは子供部屋。
頭がグラグラして目を背けたくなったが、視界の端に黒いものが映って彼の袖を引いた。
『…降谷さん』
「どうした?」
『ピアノ…』
隅にあったのは何の変哲もないアップライトピアノ。
踏み出す度に増す頭痛を堪えて近づいた。
埃で覆われた蓋をゆっくりと開ける。赤い布を取り払った。
…亡き王女のためのパヴァーヌ。
多分、主旋律だけで大丈夫なはず。
私は息をつき、鍵盤を押した。
簡単な旋律だけど指は想像以上にすんなり動いてくれた。もしかしたら記憶が飛ぶ以前の私はピアノを弾いていたのかもしれない。
今となっては誰にも聞けない。誰も知らない。
鍵盤から指を離した時、ピアノの裏でガタンと音がした。
「……A」
降谷さんが私の名前を呼んで後ろに引く。
見上げれば、彼は頷いてピアノを前に動かした。
『なにかありますか?』
「…ICチップってこれのことか?」
質問に質問で返した彼の手には、確かに小さなチップが握られていた。
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羽(プロフ) - とっっても良い話でした!!最後にお話を更新されてからかなり時間が経っているのでもうログインされていないかもしれませんが、どうしても伝えたくてコメントさせていただきました…!素敵なお話を書いていただきありがとうございました! (7月8日 22時) (レス) @page38 id: 9862219e48 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 2周目です!!本当にいい話、、大好きです。書いてくださり、本当ありがとうございました。 (2022年2月4日 23時) (レス) id: b375adba0d (このIDを非表示/違反報告)
m - 立夏さんのお話、内容がししっかりしてて面白くて…他にも作品書いてるのかなって思ったら過去に読んだ事ある作品ばかりですごい驚きました!全部すごい好きな作品だったので…Twitterのフォロー失礼致します! (2021年8月31日 12時) (レス) id: a52571fa0a (このIDを非表示/違反報告)
りー - 叔母様いい人や!姉さんの事好きだったんやな(´;ω;`) (2021年8月22日 22時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 推しが尊いマンさん» わ〜!ありがとうございます!後半すごく悩みながら書いていたので本当に嬉しいです!最後までお付き合い頂きありがとうございました!! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2019年4月5日 20時