スキになったら負け！【Hirano.S】 (ページ37)

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episode35 ページ37

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私は今、
紫耀くんが運転する車の助手席でゆらゆらと揺られている。

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ことの発端はそう、
今朝の紫耀くんの一言で。

「今日仕事早く終わるから出掛けよ！」

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本当に珍しく夕方の早い時間に帰ってきた彼は
マンションの地下駐車場で素早く私を拾って、

どこにいくのか、

なにをするのかはなにも告げないまま

周りの道路からは
建物やその明かりがどんどん消えて行く…

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“3/14 今日はホワイトデーですね。”

流れていたラジオから
そんな声がして

あっ、そっか。

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何となく、
紫耀くんの企みに気づいてしまったけど

見つめた横顔は、
やけにご機嫌だから

「ん？なに？なんかついてる？」
「んーん」

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敢えて、何するの？とは聞かないであげる。

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それからもうしばらく車は走り続け

出発するころはまだ薄暗かった空は
もう真っ暗になっていて

「とーちゃく！……おりるよ！」

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素早く運転席から降りた紫耀くんが
もたついてる私の方へ回ってドアを開けてくれる。

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「…さむっ」

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降りた途端、
身体に吹き付ける潮風。

「海？」

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目の前は海だ。

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あまりの寒さに凍える私に

「大丈夫、すぐあったかいとこ入れるから」

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そう言いながらも
当然のように自分のジャケットを脱いで私の肩にかける。

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「え！いいよ、紫耀くん寒いでしょ？」

ジャケットを返そうとする私の手を
「だから大丈夫、すぐあったかいとこ入るから(笑)」

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そう言って制すると、
ジャケットを受け取らない代わりに指を絡めて引いてくれる。

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「ここ上がる」

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紫耀くんに手を引かれ、
石の階段を登ると、
ピンクや水色にライトアップされた真っ白な洋風の建物が現れて

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「いらっしゃいませ、ご予約のお客様ですね？」

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中にいたドアマンが
私たちに気付いてドアを開けた。

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「予約した平野です」

「お待ちしておりました。」

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どうやらそこはレストランのようで、

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「こちらのお席へどうぞ」

通された席は壁一面ガラス張りで、
さっきの海が一望できるところだった。

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「紫耀くん…」

ソファシートに肩を寄せ合って座ると

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「たまにはこういうちゃんとしたのもいいでしょ？」

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紫耀くんが、
ちょっぴり恥ずかしそうに肩をすくめて笑う。

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