スキになったら負け！【Hirano.S】 (ページ25)

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episode25 ページ25

車内に流れる空気は

何故か少し寂しくて。

それは紛れもなく
隣に座る彼が
反対側の夜景を見つめてこちらを向かないからだ。

手を伸ばせば届くところに
彼の手は置いてあるのに、

さっきあんな風に離してしまったから
自分から重ねることは出来なくて

何も話さないまま
マンションへ着いてしまった。

・

・

地下の駐車場で降ろしてもらうと
相変わらず少し先を進む彼の背中。

私がジャケットを取ってしまったせいで
寒そうで

申し訳ないなって思いながら
エレベーターホールへ向かう背中を
小走りで追いかける。

・

私を一度も振り返ることなく
部屋につくと、

先に玄関を上がった紫耀くんが
くるりと振り返って

突然、
何も言わずに私を抱き締めた。

・

「…紫耀くん？」

・

・

腕を回した身体は
ジャケットを着てないせいかやっぱり冷えていて

・

「…ごめんね。」

パーティー中も私を気遣ってくれたのに
あんな風に手を離したりして。

「本当にごめん」

・

・

手を離した時の
紫耀くんの悲しい顔が頭から離れなくて
思わず涙が出そうになった。

「俺こそごめん。ちょっと海人に妬いた」

・

紫耀くんは
私を抱き締めたまま弱々しい声で言う。

「海人が褒めたらAさんすげー嬉しそうなんだもん。だから、俺のAさんなんだぞって、思ったのに…手離すから…」

「俺だせぇな」なんて
少し笑って

「でも、やっぱAさんはオトナだったよ。あんなとこで手繋いでたら…ね？」

・

・

私があそこで手を振り払った理由、
ちゃんとわかってくれたみたいで

「私は紫耀くんが選んだくれたドレスを、紫耀くんが似合ってるっていってくれたことがいっちばん嬉しいよ」

そう言って回した腕に力をこめると

「やっぱ俺Aさんには敵わないや笑」

紫耀くんが小さく呟いた。