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「少女とかぐや」 ページ24





廊下の壁を体で伝いながら記憶を頼りに外を出た。裸足の上に、ここに来る時まで来ていた着物は薄い生地の浴衣に変わり冷たい風が容赦なく体に吹きつけた。

「追い出された」と言う感覚は全くなかった。むしろ素性の知れぬ私をここまで連れて来て、家に招き入れ、温かい湯に入れてくれて、手当までしてくれて、飯まで馳走しようと言うのだから、感謝しても仕切れない。これまでの私の人生が人として生きることが出来なかったからそう感じるよかもしれないけれど、それでも嬉しかった。



『宿、今から見つかるかな。』


その時に気づく、私はお金を持っていない。父に渡された巾着ごと森の何処かへ落としてしまったからだ。


『そうだった、お金がいるんだよね。』


森に行くのは危険だから、凍え死ぬ前にどこか暖を取れるところで一晩過ごせればそれで良かったのだけれど、わたしはもう一つ忘れていたことに気付く。


『そういえばあの巾着の中、お守りが入っていたはず、』


父が包んでくれた時、お金と、地図と、お守りと、守刀を入れてくれていた。その守刀も鞘から刀が抜けなくて結局懐にしまったままそれも落としてしまっていたみたいだ。



「・・・やっぱり、取りに戻らなくては。」



そう言って城下町の本道を森に向かって足を進めていくけれどきた時となんだか様子が違った。これまで全く見えずにいたモノが今でははっきりと見える。驚くが不思議と怖さはなかった。



森へ続く門まで行くと、森の奥から背中が凍るような気配がするのを感じた。何かがいる。直感的に思う。先刻森にいた時は感じなかったものだった。不思議な違和感を感じる。




『あれ?』




その時、わたしはもう一つの違和感を覚えた。




『体、痛くない、。』




大怪我を負ったはずの私の体は、確かにあの薬種問屋を出た時までは歩くのがやっとなほどだったのに、今はうずきはするものの痛みはほとんどない。




『薬湯のおかげで痛みが取れたのかな、?』




これなら、先刻よりは素早く動けるかもしれないと根拠のない自信が湧いてくる。




『どうあっても行くしかない。ここにいても凍え死ぬだけだ。』




誰に言うでもなく、自分にそう言い聞かせて森の中へ足を進めた。




しかし、わたしは後悔することになる。妖がはっきりと見えるようになった今、黒い霧と冷たい風の招待を目の当たりにして、朧の城下町へ来た時のように、今また木の影に身を潜めて震える足を抱いているからだ。

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Asura(プロフ) - ありがとうございます!楽しみなしてます😆 (6月9日 1時) (レス) id: 79a3f00215 (このIDを非表示/違反報告)
スヒョン(プロフ) - Asuraさん» はじめまして!コメントありがとうございます!まだ続編移行しておりませんので、しばしお待ちください!移行しましたら移行先貼りますね😊 (6月8日 1時) (レス) id: 923ba31eb7 (このIDを非表示/違反報告)
Asura(プロフ) - 初めまして!スヒョンさんのお話大好きです❤️いつも更新楽しみにしながら読ませていただいてます😆突然なのですが、続編の移行先はどこになりますか? (6月8日 0時) (レス) id: 79a3f00215 (このIDを非表示/違反報告)
スヒョン(プロフ) - 39ra1sh0wさん» コメントありがとうございます!usermho6x4ya37←こちらになります!作品名検索でも出てくると思います! (6月7日 22時) (レス) id: 923ba31eb7 (このIDを非表示/違反報告)
スヒョン(プロフ) - はなさん» はなさんコメントありがとうございます!嬉しいです😊 (6月7日 22時) (レス) id: 923ba31eb7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:スヒョン | 作成日時:2023年4月22日 2時

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