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side -ibuki-









「自分でやるから大丈…」


『私がやりたいんです




お願いだから…やらせてください』






そう言って俺の目を貫いたAの目は


怒りや同情ではなく


悲しみの涙で滲んでいた




素直に救急箱の場所を教えると


Aは俺を座らせて小走りにそれを取りに行く




俺の向かいに座って消毒液で傷口を拭き取り丁寧に包帯を巻く彼女は


まだ悲哀に満ちた瞳をしていた






「手馴れてるな…」




『……昔からよく自分でやってたので』






そう力なく笑って見せたAは今にも壊れそうで


何かに怯えるように震えていた






『できました

キツかったりしませんか?』






そう言って愛想笑いを浮かべているAの後頭部に手を回し


自分の肩に押し当てた




子供をあやすように頭を撫でると


Aは俺の胸元をキュッと握りしめ


何かに堪えるように震えている






「……まだ怖い?」




『……怖い、ですよ…?




誰かの暴力を見るのも…


誰かの血が流れるのを見るのも…




……おかしいですよね?


もうあの人はいないのに…






……たまにね?思い出しちゃうんです




……あの人の顔も声も手も…


その全てが怒りに満ちていて…



苦しくて怖くて堪らない…






……でも…




先生が傷つく姿を見るのが









一番苦しくて怖いんですよ…っ…』






「……顔、あげて?」






ゆっくりと上げられたその顔には


もうさっきのような愛想笑いは張り付いておらず


そっと頬に手を添えると


水越に叩かれたせいか少し腫れている






監視カメラで見ていた水越への言葉に


トイレの壁の向こうから聞こえて来た諏訪との会話に


Aが感じている責任が想像よりも重たいことを悟った






「俺も…


Aが傷つく姿を見るのは苦しいんだよ…」




『…ハハッ…お互い様ですね』




「そうだな」









俺たちは完全じゃない






足りないところが多くて


常にそれを埋められる何かを探している






だから俺達は


互いにそれを埋め合うために一緒にいる






一緒にいなければ


その何かが欠けてしまうから






それが無ければダメになってしまう何か






それは多分


"愛情"


というもので






「…A……」




『…んっ……』






俺たちはこうして唇を重なることで


それを埋めているんだ

.→←.



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佐藤。(プロフ) - マドレーヌさん» ありがとうございます!本当に不定期すぎる更新で申し訳ないです…。頑張ります! (2019年10月11日 18時) (レス) id: e3ca0308e7 (このIDを非表示/違反報告)
マドレーヌ(プロフ) - とてもおもしろいです(*^^*)一気読みしてしまいました!これからも頑張って下さい♪応援してます(p`・ω・´q) (2019年10月4日 19時) (レス) id: c84dba5333 (このIDを非表示/違反報告)
佐藤。(プロフ) - 歌波さん» そうなふうに言っていただけて嬉しいです…!完璧なる自己満足作品ですが、これからもよろしくお願いします! (2019年5月3日 16時) (レス) id: e3ca0308e7 (このIDを非表示/違反報告)
歌波 - 神作をまたもや発見 (2019年5月3日 14時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:佐藤。 | 作成日時:2019年4月30日 18時

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