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だれがための命なの ページ10




『原はさぁ、もし大切な人が亡くなったら、どうする?』

まったく変なことを聞いているとは自覚していて、不審がられるのは覚悟済み。引かれることに臆しながらも出した問いかけに、意外にも原は私を馬鹿にせず、掠れた声で笑いながら応答した。

「どうするって何がだよ」
『…いやその、あのどう行動するかってこと』
「んーー」

原が、なんにも瞬かないしっとりと闇を吸い込み染まった夜空を見上げると、ぐっと小石のような喉仏が強調された。それを見つけてしまって、なんだか居たたまれない気持ちになる。性とは厄介なものだった。

「どうもしねえよ。昔ふたりで読んだ中のどっかにさ、"たいせつなひとが亡くなったら、死ななければなりません"見たいな物騒で思想つえーこと書いてた詩、あったじゃん。憶えてる?あの頃の純粋で純朴なやさしき俺はあの誌に惹き付けられて、」

そこで、1拍置いた。
まったく憶えていなかったが、ここで忘れたとか言うのもしちめんどうくさいので、それらしく『あぁあれね?』と相槌を打った。

「最初は大事な奴が死んだ時、俺も死のうと思った。てか、そうすべき、そうしないと不義理だとも思ってた」

そう歌う原に少々呆然とする。
彼のような奔放な人が、同じことを考えて同じ思想を抱えていただなんて到底信じられることではなかった。それは何だか馨しい予感であり、慈しい期待を抱かざるを得ない。
ねえ、言ってくれるかな。その先を。ひどく偏った生命への執着を。 己と他者との境界線があまりに曖昧で、その概念すら気薄。だからこそ、私は、ずっと。
胸を高鳴らせながら、私も習って空を見上げた。一瞬間(いっしゅんかん)だけ、チロリと星が光った気がした。

「でもさあ、無理なんだよな、普通に考えて。その頃は人は必ず何処かの誰かのいちばんなんだって考えてたけど、んなんだったら今頃大量に死んでて、そしたら孤独死なんてあるわけねえって気付いて。あー俺甘いこと考えてたんだなって。俺が誰かの為に死んだら、誰のためにも死ねず死なれなかった奴が可哀想なんだよ」

横目で私を見た。

「だから、何もしねーよ♡」

見透かされていたのかと思い込んでしまうくらいには、綺麗に丁寧に彼は根っこからパキリと手折ってきた。
目眩がする。それならどうして。さいしょから期待させないで。
あくまでもひとはひとのために死ねという前提を壊さなかった彼は、傲慢で、ああ、やさしい。されど。

月も星すらもこの夜には居なかった。

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作者名:花ら小片 | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/1yebl4asi8ufnkj  
作成日時:2024年8月12日 20時

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