脈打つ心へ ページ12
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空がずっと青いのは、あなたがそのあおいろの瞳を溶かしていたから。
薔薇がずっと赤いのは、あなたがその身体から血を流していたから。
空と薔薇の赤と青が混じり合う所にきっとあなたの心臓があって、痛みながら、されど決して止まることなくどくどくと鳴いているのね。
そのことに気づいたわたしは、ハッとお人形のように静かに座っている真隣の彼女を見つめた。
あまりにもひっそりとした静寂に、胸が掻き乱される。
静かだと感じるこの刹那にも、あなたはなお、心臓を打ち鳴らしている。
くるんとカールした羽根帚みたく繊細な睫毛が憂う陰を落とす。その奥に秘められたあおいろが好きで、きれいで、なにもかも白く感じたこの場所で唯一染まっていた。
ラインの整った鼻筋。いちごみるく色の唇。
やわらかくてコロコロした笑い方。ふんわりとした優しさ。慈愛が滲む眦。
凛とした信念。さざなみのような髪。
クラゲみたいなはだのしたで、ほたほたと涙を流す心をひそめている。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
もっとはやくに気がつきたかった。
そっとひどく冷えたてのひらを取った。骨ばったそれにわたしの体温は奪われていく。このまま、全部、持って行って。混じりあって、ひとつになってしまえ。
そろりとあおいろがわたしを向く。だいすきな色だった。ずっと優しさが滲むその色が、凄絶で、掻き乱される。
『ごめんね。あのね、わたしね………』
茫洋として色褪せる世界の中で、いつまでもあなたの色が鮮明だ。
きゅっと握ったてのひらに力を込めると、清廉な眉が困った。
「いいよ」
あおい瞳が溶けて、伝う。ひふに落ちたそれは熱かった。
「いいの…………」
この日、どこかで朝顔が咲いた音がした。
＊
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作者名：花ら小片 | 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/1yebl4asi8ufnkj
作成日時：2024年8月12日 20時
