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「A、ヘリ行く?」
どこか落ち着くような声がする
光が眩しくて表情が伺えないが、私はこの人の事を確かに知っているという事だけが頭に浮かんだ
「お疲れ様じゃん、ご飯あげるよ」
「やっぱ上手いねぇ…俺抜かされるやん」
頭に霧がかかっているかのように朦朧とした世界で、懐かしいような暖かいような声が耳に届く
「ヘリ行こ、運転頼んだ」
「サーマル見とくよ」
運転席から、助手席でサーマルカメラを覗く彼の横顔
ヘリに乗ってるってことはレダーさん?
「A」
あぁ、やっぱり違うんだ
らだおさんだ
ら「Aのヘリが乗りたい」
「大丈夫?休みな、」
「…頼っていいからね」
『っ、』
今にも崩れてしまいそうなほど悲しい表情を浮かべる彼の手が、微かに震えている
その手を取りたいのに
苦しい、辛い
「A!」
そんな声に意識が戻され、目を開けて身体を起こす
変な冷や汗がじっとりと首元に垂れると同時に、心配そうにこっちを覗くレダーさんと目が合った
『…レダー、さん』
未だに煩い心臓を抑えながら、さっきまでの記憶は夢だったのだと自覚する
レ「大丈夫?凄いうなされてたから…」
『…はい、変な夢を見ました』
不思議なことに、さっきまで覚えていたはずの夢の記憶がもう無くなってしまっている事に気がついた
さっきまで何の夢を見ていたか思い出せない
レ「…まだこの環境に慣れないとは思うけど、何かあったらすぐ俺らに言ってね」
『あ、ありがとうございます?』
突然そんな事を言われて少し驚きながらも答える
そんな私の様子を見ると少し笑って、突然柔らかい柔軟剤の匂いに全身が包まれた
『え…あ、あの?』
レ「…伝わってるか分かんないけど、本当に俺らはAを1番大切にしてるよ」
他の誰よりもね、と付け加えるその言葉は普段の優しい声とは違って芯の通ったはっきりとした声だった
『急にどうしたんですか?』
レ「いや…なんとなく、」
芹沢さんや刃弐さんから抱きつかれるなんて事は日常茶飯事だったが、レダーさんからは初めてでどんな感情よりも驚きが勝る
それでも嬉しくて幸せな感情がだんだん滲んできた

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作者名:ごーすと | 作成日時:2025年1月3日 8時