134.咄嗟 ページ34
*
トイレまで向かう間に姿がなかったので
トイレの前の壁にもたれて待っていると
Aが少ししてから出てきた。
ただ、俺に気付いてるはずなのに
前を通り過ぎようとしたので、腕を掴んで引き戻す。
「……やめてください」
「なんでいんの？」
「誘われたので……いるの知らなかったですし」
「そうなんだ」
「誰か来ちゃいますから、離してください」
Aの言う通り、人の気配がして
咄嗟に手を引いて近くにあった部屋に隠れた。
「……っ、なんで……」
「静かにして」
自分でもなんで隠れたのか分かんないけど
隠れなきゃって思って開けた扉が
ちょうど使われてない部屋でよかった。
Aの手を取り壁に押し付けていて、
ちょうどその壁に照明のスイッチがあったので押すと
顔がよく見えるようになる。
目を見て、唇を見てしまうと
なんだか初めて会った時みたいに衝動が抑えられなくて
顔を寄せてそのまま唇を重ねた。
Aは顔を背けることもなく、一切抵抗しなかった。
やっぱりキスは気持ちがよくて
少しでも俺のことを思い出して、
戻ってきてくれないかな、なんて考えながら
唇を離すと、Aの目からは涙が溢れていた。
「……やめて……っ」
掴んでいた手を離すと、
Aは逃げるように部屋を出ていった。
「なにやってんだ……」
冷静になって、どんな顔して戻っていいか分からずも
みんなの元に戻ると先に出てったはずのAがいない。
「あ、玲於！Aちゃん見なかった？」
「いや……」
「どこ行ったんだろうね？」
「荷物あるし戻ってきますよきっと」
「玲於さんやっと戻ってきたー」
見なかったもなにも一緒にいたのにそんなことは言えず
呼ばれたので千夜ちゃんの方に向かった。
「千夜ちゃん飲みすぎやって、やめとき」
「だいじょぶですって！」
「玲於、どうにかしてくれ(笑)」
「そんなこと言われても……(笑)これホントに千夜ちゃん？」
イメージで言うと普段クールでカッコいい感じなのに
酔ったらにこにこしてて出来上がってる。
「玲於さん〜」
めんどくせぇな……なんて思いながら
膝に置かれた手を掴んで千夜ちゃんの膝に戻した。
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作者名：はな* | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ge_hana_/
作成日時：2020年10月17日 7時
