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でもあいつが、本当はとても冷酷に、自分に好意を寄せる人間を切り捨てているのを、俺は知っている。……あいつの美貌に惹かれてちょっかいをかけた女どもが、クールな笑みで一様に斬り伏せられていることを。

知ってはいたが、恐れ多さに呑まれた俺は、そういうのを考えないようにしてしまったんだ。

「凡骨……」

トントンが小さくつぶやいて、コネシマがそれをきいて噴き出した。

『なんだと!』
「凡骨。凡人。凡夫。凡庸。根性なしの一般人」
『お前っ……』
「反論できるんか? でっかい屋敷にビビって茶会を辞したお前に?」
『!』

……トントンにはなにもかもおみとおしのようだった。わかっている。こいつはこれで、抜け目なく鋭い男だ。俺の「平凡な」葛藤など、まったく予想の範疇なのだろう。

「ま、こういうの縁がない一般人がいきなり茶会に上げられるってなれば、普通はビビるわな」
『…………』
「凡人には凡人のコンプレックスがあんのよ。お前にもわかるやろ、トントン」
「…………」

コネシマにそう水を向けられたトントンは、ごまかすように「ゴホン!」と大きな咳払いをして、ふたたび俺をみた。

「……お前、不誠実なことはするなよ」

トントンは、俺をにらみながらそれだけいって、台所を去っていった。俺はうんともすんともこたえられず、口をつぐんだままトントンが出ていくうしろ姿をみている。コネシマはそんな俺を横目にみながら笑っていた。……よく笑う男だ。なにがそんなに楽しいのだ。人の苦悩を蜜とするタイプに、ろくな人間はいないと相場が決まっている。

わかっている。トントンがなにをいいたいか。わかっている。俺のどこが問題か。
……俺は腰が引けただけの臆病者なのだ。高貴な宝石を前にして、触れることなどできないと恐れをなした肝の小さい男。
だがグルッペンは、そんな俺を引き止めた。無理矢理帰すことだってあいつにはできたんだ。ただコネシマに命じればよかった。でもあいつはそうしなかった。

『…………』
「どうする?」

コネシマがそう問うてくる。顔をみなくても、にやけた顔をしていることがわかった。言葉尻が不自然に持ち上がっている。わざわざいわれなくても、すべきことは決まっていた。

俺は庵を目指して走り出す。コネシマが腰を持ち上げたのが、視界の端にみえた。

▽雨の先遣→←▽



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- こんにちは!好みドストライクの小説に死にました笑笑 よろしければ、番外編など書いていただけると、今後の楽しみになります← (2019年6月26日 17時) (レス) id: 49acb176a2 (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - カロさん» リクエストありがとうございます!無事書けましたのでお知らせいたします。夢主気に入っていただけたみたいでうれしいです;!書いててすごく楽しいのでありがたいリクエストでした!読んでくださってありがとうございました! (2019年6月22日 8時) (レス) id: 5ef018c5f9 (このIDを非表示/違反報告)
カロ(プロフ) - すみません!リクエストで夢主くんとグルさんのイチャイチャが見たいです!お願いします! (2019年6月21日 18時) (レス) id: d6860b933c (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - bhさん» わーいありがとうございます;;ほんと私の好きなもの無造作につめこんだだけの作品にそういっていただけでうれしいです!完結したのでお楽しみいただければいいな…と思います!ありがとうございます! (2019年6月20日 21時) (レス) id: cfc1eef8b5 (このIDを非表示/違反報告)
bh(プロフ) - 大好きです…ド性癖です…応援しております… (2019年6月19日 15時) (レス) id: c595f3c6d5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:エス | 作成日時:2019年6月18日 0時

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