▽ ページ15
「“あいつとトントンが”じゃない。“あいつの家とトントンの家が”、許嫁の約束をしてた仲っちゅうことや」
『……許嫁の、約束？』
「まあみた通り、こいつの家は旧くて立派やろ。家柄もお察しの通りや」
コネシマはそういって、湯呑を持ったまま台所をぐるりと歩きはじめる。俺は台所の中央に置いてある作業机に両手をついて、コネシマを目で追いかける。
「トントンの家に生まれた子どもと、こいつの家に生まれた子どもを結婚させようっつー約束がまずあったわけやな。向こうはこういっちゃなんだが成金の家、こっちは金はないが由緒は申しぶんない旧家。お互い利害が一致していた。そういう取り決めがあったわけやけど、あいにく双方の家には男児ひとりしか生まれへんかったわけや」
『…………』
「向こうが養子とるかって話もあったんやけどな、向こうさんのがそのへんに関してはフットワーク軽いし。こっちがそれを蹴って、縁談はひとまずなしになった。だが向こうさんはあきらめられへんのやろな、今でもしょっちゅうこの家にトントンをよこす。水曜日の送り迎えもそれやろう。護衛っちゅうのは……、俺にはよくわからんが」
コネシマはそこまでひといきにしゃべって、湯呑の中身に口をつけた。平々凡々の家に生まれついた俺には、縁もゆかりもない世界だ。だが、グルッペンの近寄りがたく美しい感じと、トントンとの排他的といってもいい雰囲気のつながりは、そういうわけだったのかと納得はいった。
「トントンはグルッペンがお気に入りやからな」
『……はあ？ あいつらは結局、なんでもないんだろ？』
「向こうさんはあきらめが悪いというたやろ。男児しかいないっちゅーのにしつこくトントン連れてこっちに来ているうちに、トントンがグルッペンを気に入ってもうたっちゅう話や。家の取り決めは関係ない」
『……トントンが、グルッペンを……』
それがどういう感情なのかはわからない。俺にはとうてい及びもつかない世界の話だ。だが、トントンが俺に差し向ける冷たいまなざしの理由が、そこにはある気がした。
グルッペンが戻ってくるまで、俺はこの家を出ることができないし、コネシマもこの家を離れることができない。こいつのことは気に入らないが、グルッペンのことを教えてくれたという恩ができてしまった以上、そう邪険に扱うこともできない。なにしろ相手は大人だ。今の今までそれを実感できなかったが、俺より背もでかく歳も食っている、立派な大人なのである。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 243人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
暁 - こんにちは！好みドストライクの小説に死にました笑笑 よろしければ、番外編など書いていただけると、今後の楽しみになります← (2019年6月26日 17時) (
レス) id: 49acb176a2 (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - カロさん» リクエストありがとうございます！無事書けましたのでお知らせいたします。夢主気に入っていただけたみたいでうれしいです；！書いててすごく楽しいのでありがたいリクエストでした！読んでくださってありがとうございました！ (2019年6月22日 8時) (レス) id: 5ef018c5f9 (このIDを非表示/違反報告)
カロ(プロフ) - すみません！リクエストで夢主くんとグルさんのイチャイチャが見たいです！お願いします！ (2019年6月21日 18時) (レス) id: d6860b933c (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - bhさん» わーいありがとうございます；；ほんと私の好きなもの無造作につめこんだだけの作品にそういっていただけでうれしいです！完結したのでお楽しみいただければいいな…と思います！ありがとうございます！ (2019年6月20日 21時) (レス) id: cfc1eef8b5 (このIDを非表示/違反報告)
bh(プロフ) - 大好きです…ド性癖です…応援しております… (2019年6月19日 15時) (レス) id: c595f3c6d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エス | 作成日時：2019年6月18日 0時
