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彰吾さんは私の手の甲へキスした。
「気に入っ…?嫁…?!」
『あぁ。』
急すぎない?!
「お気持ちは嬉しいですけど…っ。まだ彰吾さんのこと深く知ってもいないし!」
『今から知っていけば良い。』
結婚を決めるには、早くないですか…?
『それに欲しいものは力ずくでも手に入れるタチでな。』
えっ。
「どういう意味ですか!」
『今日このまま連れて帰る。』
「…っ!」
その後上手く言いくるめられ、私は彰吾さんの馬車に乗り込んだ。
お父様もお母様も、笑顔で送り出すし。
私の想像に反して引き留めてくれず…。
なんなら冷やかしまで受けた。
隙を見て逃げ出すつもりだ。
どうにかなるよね…?
「彰吾さん。」
『呼び捨てでいい。』
「もう!!さっきから触りすぎです。」
手や髪に触って、頬を撫でて。
露骨な愛情表現。
密室に二人きり。
感覚が鈍いから、私にどれだけ触れても足りないんだろうけど。
他の王子みたいにキスしたり舐めたりが無いとはいえ…。
『呼んで。』
「っ、彰吾?」
『あーもう…。好きじゃ。』
メロメロになってしまっている彰吾さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだが、話を切り出す。
「そこの川で少し休憩したいです。」
『分かった。馬車を停めようか。』
それから私は、彰吾さんの見ていない間に逃げ出した。
来た方角が分からないから、とにかく身を潜められそうな森の方へと。
どのくらい私のお城から離れてしまったかはもう分からない。
彰吾さん…。
「相手の気持ちを尊重したい。だけど私はそれに振り回されてる。」
私の優しさでもあるけど、結果として相手を傷付ける事もある。
難しい。
「どうしたら良いか分かんないよっ!」
泣きじゃくりながら歩いた。
舗装されていない地面のせいで靴擦れがズキズキと痛む。
日が暮れてしまう前にどこか安全な場所を見付けなきゃ。
「あ…。」
コウモリが一匹私の手にとまった。
こっちへ来いと、飛ぶ。
「待って!」
着いていくしかないと思った。
「ここは…?」
森の大きな木々に囲まれていて気付けなかったが、そこには古びた洋館があった。
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作者名:If | 作成日時:2022年8月7日 8時