#133 ページ27
.
横浜でデートをした日から1週間後。
高熱を出した彼方の面倒を見て、元気になったのを確認して私は名古屋に帰った。
案の定溜まりに溜まっていた仕事を残業をしながら捌いて、遅れを取り戻した。部長にはやっぱり怒られてしまったけれど、最後のわがままだからと許してもらえた。
そして、名古屋で過ごす最後の日。
最後の仕事を終え、会社に戻り営業部のドアを開ければ、クラッカーの音がいくつも響いた。
「立花さん結婚おめでとうございます！」
「東京でも頑張ってください！」
『…っ、ありがとうございます』
部長が花束を持って、こちらに歩いてくる。
花束の中で白と桃色の花が何種類も咲き誇っている。
それを受け取ると、拍手が起きた。
「…名古屋から立花が出ていくのは悲しいが…結婚おめでとう。東京でも頑張ってくれ」
『最後までありがとうございました。本当に感謝しきれません』
「幸せになってくれよ」
はい、はい、と頷くと涙が溢れてきた。
滲む視界の端に船山先輩が見えた。
ゆっくりと近づいてきた船山先輩は私の頭を優しく撫でて、微笑んだ。
「さっき彼方さんが迎えにきてたから、下まで送るよ。行こう」
『はい』
もう一度皆んなにお礼を言って、お辞儀をした。私を祝う声が聞こえてきた。
嬉しくて、寂しくて、形容しがたい感情がまた涙となって溢れた。
エレベーターに乗って、会社のフロントの前を通ると、私を知っている人が小さく手を振ってくれた。
手を振り返しながら、前を歩く船山先輩についていく。
会社の前の道路に見慣れた車が停まっていた。
その車に寄りかかるように彼方が立っている。
「梓ちゃん、」
船山先輩が私の方を振り返った。
私をじっと見つめて、ポケットから出したハンカチで私の涙を拭う。
船山先輩の表情は、寂しそうで悲しそうで、でも幸せそうで。
「好きやったよ」
囁くようにそう言って、何かを隠すようににこりと笑った。
夕日に金髪が煌めく。
「これ、どうぞ」
ラベンダー色のプレゼント包装がされた何かが手渡される。
「その意味がわかったら、…やっぱなんでもないわ。幸せになってな…ずっと、願ってるから」
ぽん、と背中を押される。
彼方に乗せられた助手席から見えた船山先輩の最後の表情は、涙で濡れていた。
プレゼントは、純白のハンカチだった。
ハンカチを贈るのは、[別れ]を意味する。
「この気持ちにもさよならやな」
そう、聞こえた気がした。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 342人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こん - 無理しない程度に頑張ってください！応援してます！ (2018年10月9日 18時) (
レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
