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バレンタインライブが終わった後も、そらるさんへのLINEに既読がつくことはなかった。
そらるさんがそう決めたのなら僕は何も言わない。
まあでも、話はしないといけないかな。
昨日、終演後の楽屋でみんなで写真を撮った。
集合写真はともかく、そらるさんは個人的な写真にはあまり写ってくれなかった。
それでも、開演前は元気のなかったそらるさんは、終演後は元気に笑っていた。
AtRとして歌った曲はたった一曲だったけど、全然気にならなかった。そらるさんがそこにいて、歌ってくれるだけで、よかった。
俺は先に帰るよ、とそらるさんは楽屋から出て行く。
僕はその後ろを追いかけて、廊下でそらるさんを呼び止めた。
「ねえ、そらるさん!」
「…っ、何?」
「ゆっくり休んでください、ね」
また、ヘラ とそらるさんは笑った。
そしてそのまま手を振って、そらるさんは帰っていった。
次の日。
僕と翔太は、梓ちゃんに会うために名古屋に向かった。
無理を言って、梓ちゃん家にお邪魔した。
『何が飲みたい?』
「僕ココア!」
「お、お茶で…」
『はーい』
マグカップを取り出して、キッチンでいろいろと準備をする梓ちゃん。
僕らはそれを見ながら、本当に彼方さんの話をするのか迷っていた。
梓ちゃんが僕のところを訪れた日、彼方さんと喧嘩したと言っていた。
彼女は、…彼方さんが活動休止を決断した原因に自分が含まれているかもしれないと心配してるのではないか。
『おまたせ』
湯気の立つお茶とココアが、コトリと音を立てて目の前に置かれた。
そして丸い箱に綺麗に詰められたクッキーも置かれる。
『で、いきなりどうしたの?』
「えっと…」
僕らが口籠ると、梓ちゃんはやれやれという風に息をついた。
『彼方のことでしょう?』
私が知ることも、できることもないと思うけど。
そう、梓ちゃんは静かに言い放つ。
無性に泣きたくなった。
「そんなこと、ないと思うけどな。俺は。」
クッキーを一つ取りながら、隣に座る翔太が明るくも落ち着いた声でそう言う。
サクサクと音を立てて、取られたクッキーは消えていった。
「そらるさんが今唯一連絡を取り合ってるのはちかさんなのは確かだけど、彼方さんが今一番会いたいのは梓ちゃんなんじゃないかな」
『私…?』
「いくらあの優秀なちかさんでも、梓ちゃんの代わりなんてできないよ。」
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こん - 無理しない程度に頑張ってください!応援してます! (2018年10月9日 18時) (レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
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