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シャッ、と絹のようなカーテンが開いた。
その音にハッとして顔を上げる。
目の前に青い色が広がった。
『おまたせ、彼方。』
「あ、梓…」
梓が着ていたのは、花をイメージしたようなドレスだった。ベースは白なのだろうか、ふわふわとしたチュールが何層にも重ねられている。チュールは、チャペルのステンドグラスを彷彿とさせる薄紫と青のグラデーションで一層、輝く。
梓がくるりと回ると、青と紫の夜空がふわりと舞った。
『これ、どうかな?』
チュールについたラメが星のようで。
近づいてきた梓が眩しくて、直視できない。
「…、梓は何着ても似合うから…」
『なんでそんな恥ずかしいことを言ってくるの……。』
「事実だから。」
『まじめに考えてよ〜』
微笑ましそうにこちらを見るコーディネーターさんに気づいて、さっと梓は顔を背けた。
「俺、はいいと思うよ…そのドレス。綺麗、だし」
『ほんと?』
「うん。あ、ほかに梓が着たいものがあるなら見せてほしい」
『えっと…私、直感でこれだけ選んじゃったの。ほかのもの見てないし、彼方もいっしょに探していいんだよ?』
「直感で選ぶほどこれが気に入ったの?」
『だって、すごく綺麗だったから…』
そう言って苦笑する梓が可愛らしかった。
綺麗なのは梓だよ、って言ったら照れて怒られるかな。
ほんとは一緒にドレスが選びたかったけど、梓が気に入ったならこれでいい。
「似合ってるし、これにしようか」
『ほんと!』
「うん、ほんとほんと。……じゃあ、これでお願いします。」
「はい、かしこまりました。」
無事ドレスも決まり、俺たちのやるべきことはほぼ終わった。
結婚式を挙げる予定の11月5日まで、半年以上あるがすでに緊張している。
こんな不安定な俺で梓を支えていけるのだろうか。
現実味を増してきた"結婚"が、心を追い詰めているような気がした。
『じゃ、帰ろっか』
「…うん」
俺の手を握る梓の手のぬくもりが、煩わしいと思うのはどうしてなのだろうか。
不安定な心が、空模様に移ったようだった。
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こん - 無理しない程度に頑張ってください!応援してます! (2018年10月9日 18時) (レス) id: bc3ee8c138 (このIDを非表示/違反報告)
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