May all your dreams come true...【本編】 (ページ19)

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夜更かし/夜咲瑠璃ページ19

「ただいま……」

誰もいない部屋に投げかけてみた、独り言。
誰もいないのだから、当然「おかえり」なんて声はない。あった方が怖い。

靴を脱いで、手を洗って。そんな代わり映えのないルーティンの中で目に留まったのは、小さなローテーブル。その上の、メモ用紙。

《11時には帰る
メシは冷蔵庫のこはオムをチンするように》

決して上手とは言えないような、右上がりの特徴的な文字の羅列。蔵の字が潰れてて、解読がちょっとだけ難しい。
あぁでも。『こはオム』って、その単語を見ただけで、心が躍った。今晩は豪勢だ。
まぁ、それを加味しても、11時ってのはちょっと遅過ぎる気がするのだけれど。

メモの通りに温めたオムライスは、“いつも通り”美味しかった。

パンッパンッ！

ゾンビの悲鳴が部屋に響く。
この音、あんまり好きじゃないんだよなぁ。
でも、嫌いだからと言って練習しなければ、上手にはならない。
“あの子”を負かす為なら、どうって事はない！

ガチャッ

噂をすれば影、とでも言おうか。“あの子”が帰ってきたらしい。

「おかえり」
「ただいまーって、テメーまだ起きてんのか」

紺色のスクールバッグを下ろしながら、彼女は笑った。

「働いてきたアタシを差し置いてゲームとは、良い度胸してんじゃん」
「瑠璃だって宿題やったもん」
「ったりめーだろ、学生なんだから」
「そう言うこは姉は、その当たり前をしてない癖に」
「うっせ。こちとら働いてんだよ」

コツンと肩を小突かれた所為で、手元が狂ってしまった。
画面に表示される血飛沫と『YOU DEAD』の文字。

「下手くそ」
「お前の所為だ」
「言い訳乙～」

ムッとして隣に腰を下ろした彼女に殴りかかると、敢え無く受け止められてカウンターのコチョコチョを喰らう。

「ガキは寝んねの時間だ、くたばれ！」
「ぎ、ギブ……！虐待、反対っ！」

二人して笑い転げて、一息ついて。顔を見合わせると、また笑った。

「ったく……ほら、ゲームも負けたんだろ。諦めてさっさと寝ろ」
「え～……もうちょっとだけ、駄目？」

いつもなら大人しく言う事を聞くところだけど、今日は少し我儘を言ってみる。
今日だけは、どうしても。
こは姉も意外だったようで、驚いたような表情を見せた。――そして、ニヤリと笑う。

「瑠璃もとんだクソガキに育ったもんだな。よっしゃ、夜更かし上等！満足するまで付き合ってやるよ」
「わーい、こは姉大好き～」

あぁ、本当に。
悪いお姉ちゃんだ。