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「へぇ〜、そんなことがあったんですか」
『Pour profiter』の店内。カウンターに肘をついて、アネッサは大袈裟に眉を引き上げた。
「それは気味が悪いですね〜」
「あんたのボランティア精神も気味悪いけどね」
「照れちゃうです」
「褒めてないわ」
アネッサは美容師。しかしサービス精神が旺盛すぎて、客から代金をとらないことが多いのでしょっちゅう行き倒れている。今日も、あの奇妙な出来事からの帰り道に、偶然店の近くで倒れていたアネッサを発見したパトリッツァが回収してきたのだった。
「趣味みたいなものだからよいのです!」らしいが、守銭奴気味のパトリッツァにとっては理解しがたいことだった。いくらなんでも趣味の頻度が多すぎるだろう。
「そのヒトはパトの名前を知っていたのでしょう? でも異国語……う〜ん、わけわからんですね」
ラム酒の入ったグラスを持て余すように両手で持ち、ゆらゆらと頭を左右に揺らしながらアネッサが考え込む。
「『パトリッツァ』じゃなくて『ジューリア』って呼んだのよ? それもちょっと気になるわよね……」
パトリッツァの言葉に、アネッサは「うむう」と顔をしかめる。綺麗なアイスブルーが歪んだ。
「ちなみにパトリッツァ、そのヒトが喋ってたのってどんな感じの言葉ですか?」
「どんな感じって言われても……。なんだろ、フランス語……ではなかったかな。なんか、聞いたことはあるような気がするけど」
パトリッツァは、視線を上に上げてなんとか女性を思い出そうとした。
しかし、人間聞いたことがない言語は認識できないものである。何度考えても思い浮かぶのは特徴的なオッドアイと狂気的な笑みだけで、どんな言語かと他人に説明できるような材料が揃わない。
なんとか捻り出した言葉は、「なんかこう……テンション高い感じの、音程が高めみたいな……?」などと頼りないことこの上ないものだった。
「ん〜……」
静かな店内に、柱時計の時を刻む音と、アネッサの呻き声が響く。
黒髪、黒とピンクの目、テンション高い言語。この三つの単語を、アネッサは先程からずっと繰り返していた。
「Let’s see……その情報から推測するのと、あとはパトに関係があるっていうと……やっぱりイタリアじゃないですかね?」
ぽつりと導き出された結論。イタリア、と小さく呟く。
わからないですけどね、と、アネッサはグラスのラム酒を一気に煽った。
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作者名:しゅある | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月8日 21時