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「……私の、私のジューリア」
「……え?」
拙い英語で告げられたその言葉に、驚きで心臓が止まりそうになった。
――それを最後に、美しく狂気的な笑顔を残して、彼女はその場で生き絶えた。
ぽつり、と冷たい雨が頰に落ちる。呆然として動けない。頭が真っ白で、何も考えられない。
ジューリアと、この人は言った。
ジューリア。それは、私がかつて貧民だった時の愛称。「私のジューリア」……つまりこの人は、私のことを知っていた?
でも私はこの人を知らない。左右で目の色が違う何て分かりやすい特徴の人、知っていたら忘れるはずがないのに。
ということは向こうが一方的に知っていたという事になるが、この人が話すのは異国の言葉。なんだって外国の人が、一度もジャルドーレ通りから出たことがない貧民上がりの私のことを知っているのだろうか。
考えれば考えるほどよくわからなくなっていく。女性の亡骸は未だに私の足元に横たわっているのだ……まずはこの状況をどうにかしなくては。
それにしてもどうやって。途方に暮れている私の前に、一人の男性が現れた。
「おい」
無言でそちらを見据える。するとそこには、煙草を手に持った、どこか気怠げな雰囲気の男性が立っていた。
男性は何かをブツブツと呟きながらこちらに近づいてくる。そして私を払いのけて、横たわっている女性を観察し始めた。
……何なの、この人?
どこかで見たような気がしないでもない。おそらく三十路くらいであろう、黒い外套にボサボサの黒髪の男性を見つめて考える。ジャルドーレ通りの人かしら?
絶命した女性、女性を観察する男性、そして男性を見つめる私。そんな奇妙な状況が暫く続いたあと、男性がおもむろに立ち上がった。
「間違いねえな」
間違いないって何よ、と言いたい気持ちを抑える。この人はおそらく、『そういう』感じの危険なお仕事の人なのだろう。――私は、できれば関わりたくないジャンルだ。
男性は何故だか女性の亡骸を背負い、今まで吸っていた煙草を踏み潰して、新しいものに火をつけながらこちらに視線を向けた。
「この女は知り合いか?」
「いいえ。向こうは知っている風だったけれど、私は知らないわ」
「ならいい。依頼があって探してただけだ。さっさとお家に帰んな」
男性はそのまま踵を返す。
「待って。貴方は?」
その背中が一度振り返って、そして興味なさげに元通った。
「死体回収屋のハザマ」
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作者名:しゅある | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月8日 21時