【短編集】懐中時計のダーツ盤【あんスタ】 (ページ19)

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私はパーティーが好きだ。人と触れ合っているのが大好きだ。あの、皆が楽しそうに、お喋りをしている姿を見るのが、楽しみだった。

結局、アリスは見つからなかった。それも当然で、私と衣更くんが探すのをやめてしまったからである。そのお陰でパーティーは中断、というか、終わった。今日、アリスを心から祝福しようと思って参加した者達は心底残念だというように帰っていった。確かに、主役がいないパーティーなんて、無意味でしかないので、そりゃあ皆帰るに決まってる。分かってはいるが、途端バラバラと、集まっていた人達が動き出して、周りが静かになり、衣更くん以外誰もいなくなってしまってから、やっぱり、何としてでも連れ戻すべきだったか、と後悔する。
あ～ぁ、なぁんて寂しいんだ。ワイワイガヤガヤしていたこの場所が、もう、そこら辺にある普通の庭園で、ただ、広いというだけが取り柄の、つまらないものになってしまった。

…………今日は、ろくに楽しめなかったな。私が目に見えるよう落胆したからだろう、衣更くんがこっちに視線を寄越した。それと共に降ってくる音。

「……そんな落ち込むなよ、ほら、まだ全然明るいんだから。人はいないけど、パーティー……とまではいかないか……なぁ、2人でお茶会しよう」

今日の為に設置されたテーブルやイスはもう片付けられてしまっている。そんな中の衣更くんの提案。確かに、人はいないし、しかも2人だけの…お茶会なんて、パーティーと呼ぶには小さすぎる。でも、それでもまぁ、何もしないで帰るよりはマシかなと、片付けられない備え付けのイスに座った。テーブルの上には、ここだけ片付け忘れたのだろう、手をつけられていない、ケーキに紅茶、クッキーがある。きっと、ここまで目が通らなかったんだろうな。ストン、衣更くんが腰をおろす。
彼がこっちを見て、何となく私も見返すと、案の定、視線が交差する。何をするでも無く、ただ、見ている。テーブルの上のケーキに手をつける。甘い。その間も、見つめあったままだ。

そして、じっと見つめていると、気づく。

あぁ、この目、見た気がする。アリスを穴へ導いた、白ウサギ。

衣更くんのニコッと、いつもは見せない控えめな笑顔に、とんでもなく綺麗な目に、ストン、今日何処かで見たアリスのように、穴へ、何かに、落ちた。

それは、アリスが落ちた穴よりも、ずっと、深くて、ケーキよりも甘いモノのような気がする。

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