【短編集】懐中時計のダーツ盤【あんスタ】 (ページ12)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:9,830 hit

白に映える黄と蒼ページ12

.

綺麗な雪が、しんしんと降っていた。

「マッチ、要りませんか」

マッチ箱を持つ私の腕をジャマだと言わんばかりにはね退けて、白に染まる道を歩く歩行人。空はどんどん暗くなり、見える光は街頭と、窓から覗く少しの電気だけ。

今日もまた、駄目だった。路地裏で身を丸めて体を擦って寒さをしのごうとするけれど、止む気配のない雪には何の意味もない。

膝に顔を埋めて、ぼんやりとし始めてから何分が経っただろうか。不意に目の前に誰かが立ったような気がして私は顔を上げた。

「…君、こんなところで何してるん？」

白によく映えている黄と蒼の瞳。その目が細められて、困ったような表情をじっくり見つめた。

「寒そう。これ、はい」

がさごそと肩にかける鞄を探ったかと思いきや、出されたブランケットに目を見張った。彼は、これで暖かいやろ、なんて満足そうに笑顔を私に向ける。

でも本当に暖かかった。久しぶりに感じた暖かさに頬が綻ぶのをおさえきれなくて、ぎゅっとブランケットを握れば、彼はくすりと笑った。

「…マッチ売ってたん？」

私の側に置いてあるマッチ箱でいっぱいのカゴを見た彼からの問いに、私は小さく頷いた。

「…でも、みんな買ってくれなくて。いや、まぁ、そりゃあそうですよね」

今時マッチなんて誰が買うものか。自嘲的な笑みを浮かべ、なんだか売れ残ったマッチを見られたくなくてカゴを膝下まで動かす。

「ほっかぁ、大変なんやね」

そう言って私の隣に座りこむ彼。驚いて少しだけ反対側にずれれば、それに気付いた彼があっと声を上げた。

「ごめんっ、嫌やったよね」

悲しそうな顔。立ち上がろうと地面についた手を咄嗟に握りしめる。

「いやじゃ、ないです！ぜんぜん、嫌なんかじゃ…」

最後になるにつれて羞恥が私を襲って尻すぼみになる。再度腰を下ろした彼に、私は口に開いた。

「…ただ、何でこんなみすぼらしい見ず知らずの私に話しかけてくれて、これもかけてくれるのかなって…」

触れた指先が熱くって、雪が溶けてしまいそう。心臓が真夏の蝉みたいにうるさい。はやく、なりやめ。