甘い珈琲【QuizKnock短編集】 (ページ1)

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【izwside】珈琲ｲｻﾞﾜページ1

『珈琲どうぞ』

机に置かれた衝撃でカップの中の珈琲が少し波打った。

『今回のは格別に美味しいよ』

微笑んで僕の目の前の椅子に座る。

甘ったるい匂い。

砂糖多め。

君はいつもそう。

僕はブラックの方が好きだけどこれは例外。

大好きな味。

「ありがとう、頂きます」

カップ唇に当てゆっくり啜る。

ちょっと酸味が強いけど、しっかりと口の中で甘さを感じられた。

「美味しいよ」

感想を告げるとおもむろに立ち上がり、

『実はこれ“最高級珈琲豆"なんだ！拓司くんの為に買っちゃった』

いかにも胡散臭い商品名で思わず吹き出してしまった。

『なんで笑う？』

はてなマークを浮かべている君がとても可愛くて。

「おいで」

腕を広げてあげると僕の傍へ来て控えめに抱きついてきた。

『なんでこのタイミングでぎゅー求めるの』

「いいじゃん」

目線を合わせ優しくキスを交わす。

唇が離れるとぼそぼそと呟いた君。

『全部飲んでからキスしてほしかった』

「なんで」

『キスするときに珈琲の微妙な苦味と砂糖の甘さを沢山感じられるから、大好きなんだ』

ちょっとはにかんで答えてきた。

僕はきつく抱きしめた。

　数ヶ月後、その珈琲は思い出のモノになってしまった。

今頃他の男に淹れてあげてるのならと考えるだけで、気分が沈む。

どうせその男はすぐにこの味なんて忘れてしまうのに。

僕はいつも君が何気なく淹れてくれた珈琲だからこそ、その味が頭から離れないのだ。

またいつか、

元の関係に戻れたら、

なんてね、

コンビニで買ったブラックコーヒーを流し込んだ。