第九十二話 レヴィアタン ページ50
秘密結社にはあっさりと入団できた。やったね。
目の前にはよく分からないものが鎮座している。茶色のどろどろとしたものがつがれた深皿で、紫色の靄が立っていた。
もちろん、これは食べ物である。研究所でもよく食べてたっけ。食欲がなくて、スプーンを数分間それにつけて放置していたら、スプーンが溶けてしまった。仕方ないので、手が変異してできたひれを動かして、それを食べた。
それより、たまにワタシを奇異の目で見つめる人がいるのが気になる。ワタシの容姿は珍しいからだろうか。でも、陸上で活動する人魚なんて、そこまで見るようなものでもないと思うけど。
這いずるたびに、長い赤毛が引きずられていって、銀と紫の鱗は床にこびりつく。食べ終えた食器を片付けて、ワタシは前髪をひれ先でいじる。
秘密結社に入団した理由なんてのは単純だ。利害の一致。秘密結社はフォビアを壊したいと思っているし、ワタシは[データ削除済]を再収容したい。
ジョバンナには最優先事項として、研究所の整備をしてもらっている。トイレやらがなかったら困るし。手が空いたら、例の赤ん坊の捜索をするように命令したけど、多分やらないだろうなあいつ。
まあそんな事はどうでもいい。
ワタシは祈る。目を伏せて、指の代わりにひれを組み、うつむいて。旧文明では、このようにして神に祈願をしたという。
どうか、やつを消せますように。
どうか、やつを眠らせられますように。
どうか、やつを殺せますように。
破壊できますように。
やつはあってはいけないもの。[データ削除済]はだめだ。あれは生き物なんかじゃない。もちろん、天使なんて優しいものでもないし、悪魔なんて易しいものでもない。
それよりもずっと邪悪なものだ。欲望の坩堝。捕まったら、逃げられない。
ああ、そうだ。あれを知る人間もどうにかしないと。あれは食べるから。心を喰らうから。貪欲で強欲で、何よりもお腹を空かせているんだ。
ワタシは、細く長く息を吐いた。
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ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しましーた (2019年12月16日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しまっす (2019年12月16日 21時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月10日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
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