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第五十話 ゼーゲン ページ2

西区と東区が全面戦争に突入するほかないというこの状況のさなか、私は西区の中枢にて静かに紅茶を飲んでいた。南区統治者たる私が態々ここに来ている、というだけで既に彼らには私が何をしようとしているか分かるだろう。
フォビアコンプレックスの区同士での戦争。北区は傍観に回るだろうが、平時において両区と関係を保とうとしてきた我々はそうはいかない。東西両側から「貴様は敵だ」と言われるのも、南区を戦場にされるのも、何としても避けねばならない事態である。

「それで、貴方は一体何を所望なのかしら。貴方自身の口から聞かせてくださいませんこと?」

「端的に申し上げるとするなら、同盟……あるいは停戦協定を結んで頂きたいのです。書面は私のほうで用意しております」

私は用意していた書類をルースさんに差し出した。

「東区にも同じことを言っているのではなくて?」

「とんでもない!フォビア様に誓って、そのような小賢しい真似など致しませんよ」

「……ええ、そうでしたわね。貴方はそういうお方ですもの」

ルースさんの不愛想で真面目くさったような表情が一瞬崩れたように私には思えた。

「それにしても、何故こちらと同盟を?わたくしたちの誇れるもので、貴方の欲するようなものは医術くらいしかないでしょうに」

「あの薔薇の女帝と手を組んだところで、いずれ裏切られるのは目に見えています。あなたはきっと、そんなことをするような人間ではない。それに……」

私はそこでわざとらしく台詞を切り、自分にできる精一杯の甘い顔とやらを向けて言った。

「何より私は、この素晴らしき統治者による美しい西区が、ミュータントに蹂躙されるのが嫌なのです。西区も東区相手に勝算があるからこそ宣戦布告をしたというのは理解しています。しかしそれでも……私ごときが言っていいのかはわかりませんが、どうしようもなく不安なんです」

私は窓の外に視線を向ける。

「私が生まれた頃から、地下都市は腐敗していました。それでもあなたと、あなたの治めるこの地域は美しい。私は……ルースさん、あなたのことを好いているのかもしれません。南区と協力するのはあなたの流儀に反するというならば、断ってくださっても構いません。ですが……私自身は、何があろうとあなたの味方となりましょう」

我ながら、情けないくらいに独創性のない言葉だ。こんな言葉でも、ルースさんの心はたなびいてくれるだろうか。
私を輝かせる一要素として、彼女のことは必要なのだ。

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ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年12月16日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しましーた (2019年12月16日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しまっす (2019年12月16日 21時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年12月10日 22時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ミクミキ x他2人 | 作者ホームページ:http  
作成日時:2019年11月13日 19時

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