フォビアコンプレックス (ページ49)

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第四十八話　レヴィアタンページ49

ああ、大変だ、大変だ。

　薔薇宮からの通話を切断し、素早く指示を出す。しかし、人手が圧倒的に足りない。

　ついさっき、何者かがこの施設に侵入し、ミュータントを複数体解き放ったのだ。侵入者は捕らえたが、肝心のミュータントはまだ脱走中だ。一部の個体は施設を抜けだしてしまっている。

「おチビ、ちゃ……おチビ、ちゃんっ！」

　監視カメラの映像では、アラクネがワスプを食べている。ワスプも対抗するかのようにアラクネの細い脚を食い千切ったりしているが、アラクネが放出した糸のせいでうまく動けないでいるようだった。傷ついても、ゼロ生物特有の不死性で、もはやそれは泥試合のようであったが……やがて、回復が追いつかなくなったワスプがアラクネに捕食されてしまった。

「う、あ……スージー……」

　別の監視カメラには、温度調節機能を弱められたナンバー１１４６月兎が、弱々しく呻いている。あれは確か、薔薇宮の夫だったっけ。まあそれは良いんだけど。グランディニーリ種の月兎は、ゼロ生物特有の不死性が無効化されるくらい、熱に極端に弱い。ぴくぴくと痙攣し、そして動かなくなった。

「ぉ……かぁ、さ……」

　この前運搬されてきたナンバー１２４５ラミアが、扉を破壊して町へと飛び出して行った。腐った身体からべちゃべちゃと肉を撒き散らしながら。

　うーん、こりゃ大変だ。月兎が死ぬのは別に良いし、ラミアだって、ゼロ生物の中では比較的鎮圧が容易なエキドナ種なのだから。

　けど、アラクネがワスプを食べてしまうなんて。

　エキドナ種は経口摂取した生物の遺伝子を取り込んで繁殖が、つまりは子供を作る事ができる。もっとも、その関係性は親子というよりは女王蜂と働き蜂といった方が近いが。

　エキドナ種から生まれた子供は、父親(厳密には父親というべきではないが、便宜上父親と記す)と近い性質を持つ。

　その強さと雑食性からあらゆる環境に適応できるアントリオン種と、食事と生殖を同時にこなせる繁殖力の強いエキドナ種を掛け合わせれば、いったいどんな玩具ができあがるっていうんだ！

　ああ、楽しみだなぁ！