第四十一話 ミア ページ43
ぼんやりとした薄明かりの中目が覚めた。
「……ァ……ゔぁ……」
嗚呼、泣いている。私の子どもたちが泣いている。
噎せ返るような血と膿と腐りきった肉の臭い。私たちの声とモーターの駆動音のみが響くこの空間にも慣れきってしまった。動けない此の躰では、慣れてしまう他なかった。
「どうして、どうして……」
溢れる涙を腕で拭おうとした。拭えなかった。
私の腕で、ふっくらとした頬が、小さな腕が、ぷっくりとした唇が動いていた。円らな瞳が、私を見つめていた。
私は「月の希望」であり「聖女」だ。
恐るべき「フォボス症候群」を治療する力を持ち、自らの躰から人間を生み出し続ける醜い聖女。
突然、部屋が明るくなった。誰かがまた、私の子を奪いに来たの?それともーー
「ははっ、相変わらず陰気臭い顔だな。『聖女サマ』」
「……貴方でしたか。『赤の王』よ、一体何用ですか?」
上級幹部、クランクハイト…『赤の王』と私は呼んでいるが、彼は相変わらず、目元を薄い布で隠し目線を読ませないようにしていた。既に血に濡れた軍用ナイフを手にしているが、また私の子どもたちを傷つけるつもりだろうか。
「……随分と警戒してんなァ?ま、今日のところは貴様にくっ付いてる機械に用があって来ただけだ」
そう言って彼は、私の手の届かない場所で、何かメモリーカードのようなものを差し替えた。不意に、彼はこんな事を聞いてきた。
「なぁ、聖女サマ。最近、今まで程は泣いてないように見えるが……何か、あったのかァ?」
「そう、ですか……?」
もしかして、クランクハイトは私の秘密の通信に気づいたのだろうか?
WPSの会長であり、私の友である奏さんからのメッセージ、それも、私を救出する計画に関するメッセージについて彼に知られてしまってはいけない。恐れてしまえば、彼の能力で直ぐにバレてしまう。
そう思う隙も与えず、クランクハイトの赤い瞳と目を合わせられてしまった。
「……成る程ねェ。オレは貴様のやる事に口は出さないよ」
クランクハイトは、手を出さないとは言っていないと言わんばかりに、私に繋がれた機械を操作して何かのスイッチを切った。
「……言っておくが、貴様はドロモスワークスカンパニーの『備品』にしか過ぎないんだよ。貴様らが生きるも死ぬもリモコン次第だって事、忘れるなよ」
そう言って彼は去っていった。
奏さんとの通信に使っていたボタンを押したが、もう反応はなかった。
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りおーね(プロフ) - 修正終わりました〜 (2019年3月28日 12時) (レス) id: c9f96cbb66 (このIDを非表示/違反報告)
りおーね(プロフ) - 少し修正します (2019年3月28日 12時) (レス) id: c9f96cbb66 (このIDを非表示/違反報告)
薙(nagi) - 祝!続編!!頑張りましょう (2019年3月27日 22時) (レス) id: 43e3ad1e0e (このIDを非表示/違反報告)
零霧―ゼロキリ―(プロフ) - 長めじゃなかったですね、更新終わりました!あと、続編を作る必要があるみたいなんですが…どうすればいいですかね? (2019年3月27日 21時) (レス) id: 64e187c771 (このIDを非表示/違反報告)
雷夜@馬鹿な小説家(プロフ) - 修正完了しました! (2019年3月27日 20時) (レス) id: 4f6eef4efb (このIDを非表示/違反報告)
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