フォボス症候群 (ページ16)

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第十五話　スザンナページ16

「……ふむ、ここかしら？」

　かつかつ、かつかつと、ピンヒールがアスファルトを叩く音がする。それを聞き流しながら、足を止めた。比較的大きな、けれどもごく普通なマンション。私はその入り口でマンションを見上げる。

　我が社のセキュリティシステムを突破した優秀な人間が、こんなマンションに、本当に住んでいるの？そんな疑問が頭を駆け巡る。

　アクセスされた時間帯と、ここの住人のパソコン通信履歴を照らし合わせてから、候補はある程度絞り込んである。

　まずは、そうね。五階から調べましょう。候補者の住む階の中では最も低いから。エレベーターに乗って、考える。

　今回、私がその人物に関与しようとする目的は、何らかの利害関係を築くため。優秀な人間はなるべく手元に置いておきたいでしょ？利用もしたいし。

　それに、あちらの目的も知りたかった。なぜにカンパニーのセキュリティシステムを突破しようと試みたのか。カンパニーの情報を知ろうとする組織が、背後についているのかもしれないし。

　カンパニーはいつか潰したいけれど、今はだめよ。カンパニーがあるからこそ、私はフェシリアを好きにできているのに。

　もしも、その人物がカンパニーに被害を及ぼすようであれば、残念だけれど始末するしかないわよね。優秀な人間は、こちらに取り込めば使えるけれど、敵に回ると面倒臭いから。

　ちん、とエレベーターのベルが鳴る。目的の階に到着したらしい。その音を聞いて、緩みかけていた気を引き締める。

　私ってば、緊張しているのかしら。そんな事を考えながら、歩いた。