114話 ページ18
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A「お母さんお帰りなさい!」
ダイニングテーブルに広げていた宿題から手を離し、わたしは検診から帰ってきた母の元へ駆け寄り微笑む。
すると、母は涙を浮かべてわたしを勢い良く抱き締めた。
A「お母さん...?どうしたの?」
母はわたしの問いかけに答えることをせず、ポロポロと涙で衣服を濡らした。
そして何度も「ごめんね」と呟き、強くわたしの体温を自身の身に刻むかのように抱き締め続けた。
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結局その日、母から涙の理由を教えてもらうことは出来なかった。
当時、私はまだランドセルを背負い始めたばかりの年齢だったが故に、両親はそのことを私に告げるべきか悩んだのだろう、深夜に話をしていた。
"カテゴリー4の乳ガンと宣告された"ということを。
...けれど、わたしは聞いてしまったのだ。
A「...んん.....」
日中の母のことを思い出して眠れなかったのだろうか、ぼんやりと意識がまどろみから抜けかかってしまう。
わたしはムクリと身体を起こし、何となく喉を潤そうとダイニングルームへと足を進めた。
A「あれ?電気付いてる...」
ふと、わたしは部屋に明かりが灯っていることに気が付く。
先程確認した時刻では深夜2時を超えていた。
お父さんとお母さん、起きてるのかな...
そんなことを考えながらドアノブに触れると、わたしは僅かに残っていた眠気が全て飛び、寒気を感じた。
どうしたのかな、と自問した刹那、その答えは無邪気にもわたしの前へ現れた。
母「ごめんなさい.....私がもっと定期的に検診へ行っていれば...」
父「君のせいじゃない。"乳ガン"だったとしても化学療法や放射線治療で延命が出来るって親父も言ってたし...」
母「延命、でしょう?...もう後何年も生きられないかもしれないじゃない...あの子だって...Aだってまだ小さいのに...ッ」
そこからの声はもう耳に入ってこなかった。
わたしの口端から零れ落ちた驚愕の言葉すら、脳は拒絶する。
"乳ガン"
その言葉が何を示唆するのか、わたしは幼いながらも容易く理解出来た。
祖父がよくわたしに話してくれていたからだ。
わたしは嗚咽を漏らす母と、それを慰める父の声から逃避するように自室へと走った。
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奏奏奏(プロフ) - きぇぇぇぇ!!さん» ありがとうございます!これからも頑張っていきます! (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
奏奏奏(プロフ) - レナさん» ありがとうございます!励みになります´`* (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
きぇぇぇぇ!! - ラジエーションハウスは大好きな作品(?)なので頑張ってください!(?) (2019年7月30日 17時) (レス) id: 5d428d39a9 (このIDを非表示/違反報告)
レナ - 待ってました。これからも頑張ってください。 (2019年7月16日 22時) (レス) id: 869c734d75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奏奏奏 | 作成日時:2019年7月16日 19時