壊れても (ページ17)

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移動車の中で、俺は大橋の手を離さなかったし、

謙杜は落ち着こうとしきりに深呼吸をしていた。

不自然な緊張感は楽屋に着いて更に高まった。

大橋「みんな。俺が居る。頼りないかもしれへんけど、俺が居るから。」

大橋がすっと立ち上がって言う。

その背中はいつもよりも大きく見えたし、頼もしかった。

少し全体の空気が緩んで、表情も柔らかくなる。

プロデューサーという地位の人はそもそもあまり収録を見に来たり、直接声をかけたり、ということはない。

今日は周りを見回しても居なくて少し安心する。

収録が無事に終わって、次の現場に移動しようというときだった。

時間には割と余裕があり、楽屋でみんなくつろいでいた。

ちょっとトイレ行ってくる、と声を掛け、部屋を後にする。

現場に居なかったことで全員が油断していた。

俺も含めて。

用を足し、飲み物を買おうと自販機の前で悩んでいると靴音が聞こえた。

誰か来たんか、と後ろを確認すれば、

プロデューサーさんだった。

断じて敵ではない。仕事上でお世話にもなっているのだから。

藤原「あっ、おはようございます。。お世話になってます。」

そのはずなのだが、、。

プ「あぁ、藤原くん。

……今一人？」

はい、と答える声が少し震える。

高い身長から俺を見下ろす、舐め回すような視線がどうも好きになれない。

にっ、と口角が上がる。

プ「少し部屋に入って話さへん？」

有無を言わせぬ口調だった。

形式上は疑問形にしているが、実質

話すよね？

という脅迫だった。

すぐ近くの空き部屋のドアを開け、俺が来るのを待っている。

俺は足が竦んで動けなかった。

彼ははぁ、とため息をついて、

Glareを発した。

プ「Come(来い)」

逆らえなかった。

逆らおうという気すら起きなかった。

合意のないCommandは犯罪、なんて頭に浮かびもしなかった。

ただただ頭がぼおっとして、

脳が溶けたんじゃないかと思えるぐらい、

従いたい。

この4文字しか頭になかった。